short
□わたしのカミサマ
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彼女は、空想の世界が大好きでした。
魔女や海賊、剣と魔法、伝説と冒険の世界。
願いが叶う魔法の杖を求めて砂漠を旅する一行や、三人の子分と魔法ネコを連れて冒険する海賊の少年。
そんな物語を綴った本を読むことが、何より好きでした。
彼女は、歌うことも好きでした。
テレビやカセットテープ、両親が好んだアーティストのCD。
お気に入りの曲を何度も聴いて、メロディーに合わせて小さな声で歌うことが好きでした。
大人になった彼女は、今でも大好きな世界の事を歌ってみたいと思いました。
小さい頃に繰り返し歌った曲の中からひとつ選んで、物語を考えました。
「色とりどりの、甘く優しい涙を流したカミサマ。
嬉しい時も悲しい時も、いつも泣いてばかりのカミサマ。
じゃあそのカミサマは、一体いつ、笑ったんだろう?」
「お父さんとお母さんには内緒だよ」
彼女はそう言って、作った曲を小さな男の子にこっそり聴かせました。
それはきっと、彼女と男の子が初めて共有した秘密でした。
曲を聴いた男の子は、ある時彼女に尋ねました。
「泣き虫カミサマって、おれのこと?」
男の子は、自分がよく怒られて泣いてしまうから、彼女がそれを歌にしたのだろうと思ったのです。
自分を見上げて答えを待つ男の子に、彼女は思わず笑いました。
「さあ、どうだろうね?」
おもしろそうに、彼女は答えをぼかしてしまいました。
そして彼女は、泣き虫なカミサマの小さな頭を少し乱暴に、それでも優しく撫でたのでした。
*わたしのカミサマ
Beat de Pon! 2015
パンフレットに掲載。「ましろのうた」収録の「ドロップ」の話。
160708