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□コーヒーで語る幸福論
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「飲み物はー?」

「コーヒーで」

「ん、りょーかい」


 短いいつもの会話。俺の家にやって来た彼女は自宅であるかのように慣れた動作でキッチンに入っていく。

 数日に一度の頻度で講義を終えた後に来る客人はここを第二の自宅と認識しているようで。俺もそのことについては全く迷惑でもなかったし、寧ろ嬉しかった。

 いつでも好きな時に来て良いと言って合鍵を渡しているのに、彼女は俺が家に居る時にしか来ない。気を使うことは無いのに、それでも、と彼女は笑うのだ。

 コポコポと沸騰したお湯をマグカップに注ぐ音が聞こえる。鼻を掠めるのは、コーヒー特有の香り。特に拘りは無いから、メーカーの名前は覚えていない。

 少しして、彼女が湯気の立つマグカップを両手に持って戻って来る。ことり、とブルーの方を俺の前に置いた彼女は俺の隣に腰を下ろした。彼女が持つ同じタイプの淡いピンクの中身を見て、思わず方眉を上げる。


「……何それ」

「んー……コーヒー牛乳?」


 俺の問いにことりと首を傾げながら曖昧に答えた彼女は、それを一口含んだ。珍しい、俺の前ではいつも紅茶しか飲んでいなかったのに。


「コーヒー、嫌いじゃなかったっけ?」

「嫌いっていうか、飲み慣れてないだけ。ブラックは流石に無理かなあ。砂糖と牛乳で何とか飲めるけど」


 これで丁度良い味になるのだと付け加え、もう一度口に含む。


「いつか、牛乳無しで飲めるようにはなりたいけどね。これじゃあ子供みたいだし」

「俺はべつにそのままでも良いと思うけど」

「それは、何となく嫌」


 どういう心境の変化なのだろう。彼女の考えが読み取れずにその横顔を眺めたままコーヒーを口にする。……もっとも、そう簡単に彼女の思考を読み取れたなら面白くないのだけれど。

 俺の疑問が含まれた視線を読み取ったのか、彼女は微かに笑ってマグカップをローテーブルに置く。薄茶の液体が揺れるのを眺めながら、彼女はぽつりと言った。


「……好きなものはさ、共有したいって思うじゃない」

「?」

「好きな人が好きだって思うものを、自分も同じように好きになりたいって。好きになれないものだって勿論あるけど、でも出来るだけ好きなものを共有したいって。……そう、思ったから」


 だから、コーヒー。そう呟くように言って、彼女は取り繕うように再びマグカップに手を伸ばす。顔を隠すように俯いて牛乳入りのコーヒーを飲む彼女の耳は、ほんのりと色づいていた。

 何も言わない俺に痺れを切らしたのか上目使いで軽く睨んでくる。その様子に笑うと、さらにきつく睨まれた。


「……なに」

「いや……」


 思ったことは、本当は口にした方が良いとは思うけど言わないでおく。なんせ、口下手なものだから。

 その代わりにとまた心の中で呟いて。まだ中身の残る自分のマグカップを置いて、彼女からも手元のそれを攫って並べて置くと、俺は静かに彼女の頬へと手を伸ばした。




コーヒーで語る幸福論

(苦ささえ甘さに変わる)
(愛しく感じる、時間)



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最近飲み始めてふっと浮かんだ。
私も砂糖と牛乳がないと飲めそうにないです。
ついでにスガさんのコーヒーも大好き。

120116

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