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「死神さん、あなたの名前はなんていうの?」
「そんなの、教えるわけないだろ。人間なんかに軽々しく僕の名前を口にして欲しくないね」
だから、先に伝えられた少女の名を覚えるつもりもさらさらないのだとフィーアは続けた。
「じゃあ、あなたの名前は死神さんだね。名前を教えてくれないなら、そう呼ぶしかないよね」
「……勝手に呼べば」
「よろしくね、死神さん」
そっけない態度に怒る様子も見せず微笑む少女に少しだけむっとして、フィーアはそっぽを向いた。くすくすと笑われ、機嫌がさらに悪くなる。
けれど、フィーアは彼女の傍から離れようとしない。彼女の最期を看取ることが、フィーアの役目なのだから。
少女は病室に一人きりの時――つまり、フィーアと二人きりの時、よくフィーアに話しかけた。
入院生活が長いのだろう、医師や看護師の訪れる時間や面会の時間をほとんど把握しているようで、傍にフィーア以外がいる時はフィーアに話しかけることはしなかった。
様子だけを見ていたなら、少女に死期が迫っているなどとはまず思わないだろう。普通に自力で起き上がり、何の支えもなしに歩きまわる。人と話す彼女の雰囲気はとても明るいものだった。一つだけ挙げるならば、少しだけ食事の量が他人より少ないところだろうか。
「心臓を患っているの。普段は大丈夫だけど、無理をするとすぐに倒れてしまう」
少女は薄く笑みを浮かべながらフィーアに言った。
「先生にあと数カ月でしょう、って言われてもう一年が経ってる。それだけ慎重に生きてきたってことかな」
「……思ったより遅かった、って言わなかったか」
「本当ならもう死んでいてもおかしくないもの」
さらりと少女が口にした言葉に、フィーアは思わず眉間に皺を寄せた。この少女はよく簡単に「死」を口にするのだ。……まるで、死を恐れていないと、死を軽んじているのだとでも言うように。
普通の人間なら、死を恐怖の対象として認識しているのではないだろうか。少女にはそれが全くと言っていいほど見られない。長い闘病生活でその意識が薄れてしまったのか。
何にせよ、自分には理解などできないのだろう。フィーアは少女から目をそらしながらそう思った。
自分は死神であって人間ではないのだ。違うモノの思考など、解る必要はないのだし、考えたいとも思わない。
「どうかしたの、死神さん」
少女の声で我に返る。彼女の瞳には相変らす不機嫌そうな表情のフィーアが映っていた。
「なんだか気難しそうな顔してる。何か悩み事でもあるの?」
小首を傾げる少女にフィーアは溜息をついて、お前の所為だと言おうと口を開きかける。そこで、ふと動きを止めた。
自分はどうして、彼女のことを考えているのだろう、と。
そう思ったと同時に嫌悪にも似た感情が生まれる。それが自分に対してなのかこの少女に対してなのかはわからない。けれど、湧き上がるその形容し難い感情は、居心地が悪くなるような、あまり好きになれるようなものではなかった。
「死神さん?」
「……なんでもない。お前には関係ないだろ」
もう一度問いかけた少女にフィーアは薄く開いていた口を閉じ、口をへの字に曲げた。そんなフィーアを見て、少女はそっか、と微笑む。
まるで、フィーアの胸の内を見透かしているかのように。フィーアの心情を理解した上で、敢えて何も言わないとでも言うかのように。
小さな憂鬱
(モノクロに近かった私のセカイ)
(そこに色を差してくれたのは、あなたでした)
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明けまして、一発目です。
今年もどうぞよろしくお願いします!!
120101