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□人魚の歌5
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意外にも弱気な意見に驚く。だが、彼女は俺が口を開けるよりも早く顔を上げにやりと笑って茶化すように言った。
「告白されたんだ?」
「……」
「断ったの? 付き合っちゃえばよかったのに」
「……好きでもないのに付き合うのも何か悪いだろ。それに」
「それに?」
続きを促されたが、俺は何でもないと目をそらす。すると察したのか、彼女は呟くように言った。
「――好きな人、いるんだ」
「……」
俺の無言は大抵肯定の意を示しているような気がする。そっか、と彼女は穏やかに笑い大きく一歩前に踏み出した。
「私もいるよ、好きな人」
「――え」
突然の告白にどくり、と心臓が音を立てる。彼女がそんな話をするとは思わなかったからだ。
「……前の学校の奴か?」
「ううん、今の学校の人。……優しい人だと思うよ」
彼女の、好きな人。誰だろうと思考を巡らせる。秋山かもしれないし、クラスのやつかもしれない。それとも、他クラスか。……俺、というのはあまりにも色々と悲しすぎるので考えないでおく。
「叶うといいな」
口から出るのは、思っているような、全く思っていないような、中途半端な言葉で。言葉足らずな自分が嫌になった。
「……そうだね。叶うと、いいね」
踏切の手前に来た時、タイミング良く音が鳴り始めた。当然、二人は立ち止まる。
「ねぇ、佐上君」
電車が規則正しいリズムで近づいてくる。そのに掻き消されてしまいそうな小さな声で不意に呼ばれ、俺は彼女に目を向けた。