short

□人魚の歌5
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 彼女が最後の一音を紡ぎ終えて少しした後、俺はなるべく平静を装って声をかけた。


「――何、やってんだ?」

「……考え事を、ね」


 一拍置いて返って来た声は、やっぱり少し掠れていた。

 水波が振り返る。いつものあのあまり感情が読み取り難い顔。だが、その瞳はどこか揺れているように思えた。


「……一人、なんだ?」

「うん?」


 呟きに近い小さな彼女の言葉にどきりとする。


「見たのか?」

「――何のことかな」


 彼女は少し口角を上げる。問い詰めても吐いてくれそうにない雰囲気に俺は微かな溜息をつき、やっぱりいいよと呟いた。


「誰か待ってんの?」

「いや特には。ただ、ぼーっとしてただけだから」


 そろそろ帰ろうかな、と彼女は立ち上がる。俺を置いて歩き出すその背を追って、さりげなく横に並んだ。離れられるかと思ったが、彼女が歩みを速めることは無かったので取り敢えずほっとした。そのまま校門を出る。

 しばらく無言だったが、突然彼女が沈黙を破った。


「悩み事でもあるの?」

「え?」

「難しそうな顔してるから」

「あー、あぁ。だいぶ解決したけどな」


 いまいち整理がつかないとこぼすと、へぇ、と彼女が相槌を打った。


「……なぁ」


 考えていたことが口をついて出た。


「なぁ、もしも。友人だって思ってた人に告白されて、断ったなら。その後また前みたいに話せると思うか?」

「!!」


 彼女は驚いて俺を見る。そして、彼女にしては珍しく感情が入り混じったような複雑な表情を一瞬見せて俯いた。彼女の横顔が髪に隠れて見えなくなってしまう。


「……そうだね。前みたいに、とはいかないんじゃないかな」

「……」

「でも、そうだね、私なら。私だったら、前みたいに話せるように努力はすると思うよ。……まぁ。告白する前に大抵諦めてるけど」
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