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□人魚の歌3
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秋山はそうだ、と俺の方を見た。


「今度三人でカラオケ行かね? 水波ちゃんの美声聞いてみたい!! な、佐上、今週末空いてるか?」

「あぁ、まあ」

「水波ちゃんは?」


 秋山が身を乗り出すようにして問うと、水波は困ったような顔をした。あまり見ない表情だ。


「あー……ごめん。ちょっと、無理かなぁ」

「マジか……じゃあ今の話はナシだな。むさい男二人で行っても楽しくない」

「ごめんね、また今度誘って」

「おう!!」


 そのまま水波は次の授業の準備をすると云って俺達から離れた。その後ろ姿をじっと見つめる。


「どした、佐上」

「いや……」


 秋山の問いに首を振って彼女から視線をそらす。……昨日まで度々合っていた目が、一度も合わなかったのは気のせいだろうか。


「あ、もしかして意識しちゃった? かーわーいー」

「アホか」


 にやつきながらそういう秋山に流石にイラついたので取り敢えずはたいておいた。






 あれからさらに数日。俺の疑問は確信へと変わっていった。文化祭後から、一度も目が合わない。俺を避けているような気さえする。秋山が呼び止めて話を三人でしようとしてもすぐにかわされたり、そうでなくても会話中一度も彼女は俺を見ようとしない。むしろ、視界に入れまいとしているようだった。

この前とは明らかに違う態度。……何かやらかしたのかと思ったが、自分の記憶を辿る限りなにもしていない。ただ単に自分が覚えていないだけか、それとも気付いていないのか。あまり良い気分とは言えなかった。


「さっちゃーん。さーちこー」


 水波の態度が気になって外の音が耳に入ってこない。いや、これは敢えて無視してるだけだが。


「さちこって、おい。……じゃあ、ヒロりん、ヒロコ―」
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