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□人魚の歌2
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「水波ちゃん、ちょっと来てもらっていい?」
一拍置いて返事が返って来る。数十秒後、俺達の所へやって来たのは自称人魚、もとい、つい最近転校してきたばかりの水波。
何故ここに来て間もない彼女が委員になっているのかというと、秋山が誘ったのだ。委員になれば必然的にクラスメイト全員と話すことになるだろうから、早く馴染めるはずだという半ばこじつけのような理由で。
「どうしたの?」
「今メニューを考えてたんだけど、良いのないかなって。水波ちゃん、何かアイデアある?」
「秋山にやらせたらアジの開きとか食堂みたいなやつ出して来たんだよ。酷いだろ」
「何それ。それにそんなのどこで作るの」
「だろ?」
思わず笑う水波に俺も苦笑する。その隣では秋山がこちらに背を向けて沈んだ様子で何か呟いていたが気にしない。
水波は机に置かれていたメモを眺めると、数秒考えてその下に新たにいくつか付け足した。西村がふわりと笑う。
「あ、それ。思いつかなかったなぁ」
「この前お昼誘ってもらった時にそんな話してたの思い出して」
「あ、あの時ね。レイちゃん記憶力いいなぁ」
「そうでもないよ」
西村の言葉に彼女は苦笑した。親しげに話すようになったところを見ると、秋山の考えは失敗ではないらしい。何となく安心した。
笑った後、そういえばと水波は何か思い出したのか秋山を見た。
「他の子が道具が足りないって言ってたんだけど、そろそろ買い出しに行った方が良いんじゃない?」
「あ、マジで? どうする佐上」
「委員長はお前だろ。……一回行っとくか。足りないものも多いだろうし」
買い出しに行くけど何か足りないものはないか、と周囲に声をかける。言われた単語をノートの端に書いて破り、立ちあがった。
「……よし。じゃあ、ちょっと行って来る」
「おー、行ってらー」
「佐上君、わたしも行こうか?」
そう申し出たのは意外にも西村だった。珍しい、自分から言い出すなんて。
「西村は現場に居た方がいいんじゃないのか? 水波だけじゃわからないだろ」
「私は大丈夫。皆が助けてくれるから」
その言葉にちらりと目を移すと水波と目が合う。彼女はじっと俺を見つめた後、微かに笑って行ってらっしゃいと言った。
「行こう、佐上君」
西村に促され、二人で教室から出る。室内が見えなくなる前にもう一度振り返ると、彼女はもう作業に戻っていてこちらを見ていなかった。