short

□ただ君を思って掻き鳴らした
1ページ/1ページ

 二回目の文化祭。去年とはまた違うクラスの出し物に手惑いつつも、それでも去年よりはマシなスピードで準備を進めていって。

 当日が数日後に迫り徐々に浮足立っていく雰囲気の中、ある日の昼休みの教室の隅で声が上がった。


「何だよ。お前、ギターなんて弾けんのかよ」


 見ると、クラス一のノリの良さが売りだと自慢する男子が、隅でギターを片手に練習しようとしている男子に話しかけていた。

 当然のように男子の言葉に周囲にいたクラスメイトはギターを持つ彼に興味を示す。もちろん私もその一人なのだけれど、他の人とは少し違った意味でも彼を見ていることは秘密だ。

 彼は身を乗り出した男子から逃れたいとでも言うかのように少し身を引くと、少々不機嫌そうにまあな、と答えた。


「弾くんだよ、文化祭で」

「うっそ、マジで!? バンド組んでたのか、知らなかったなぁ」

「バンドは組んでねぇよ。ヘルプだヘルプ」


 聞くと、文化祭に有志で出るとあるバンドのギタリストが怪我をしたとかで出れなくなり、彼がギターを弾けることを知っていたバンドメンバーが彼に助っ人を頼んだらしい。


「でも珍しいなあ。お前、目立つようなことしなさそうなのに」


 それは私も思った。彼は普段、人前に立って何かをするような人間ではない。自分から何か発言することはないけれど、指名されたらしっかりと答えるような、ついでに言えば授業中はよく窓の外を見ているような人。……いや、最後のは余計だった。

 そんなことをぼんやりと考えていると、不意に彼と目が合って。突然のことでどきりとしてしまう。しかし、視線はふいとすぐにそらされてしまった。……私の視線からから逃げたように感じたのは気のせいだろうか。少し、いや相当傷付いた。


「……べつに、いいだろ」


 彼が呟いたその言葉が、自分に言われたわけでもないのになぜか心に重く圧し掛かって私はさらに落ち込んだ。





 そして当日。クラスの当番を終えた私と友人はプログラムを手に人々の間を縫うように歩いていた。彼の出番まであと五分程度。外に設けられた特設ステージへと急ぐ。

 ステージの周りにはもうすでに人だかりができていて、丁度彼がいるバンドが準備をしていた。彼の立ち位置はこちらから見て左端、ボーカルらしき人の隣。何か大きな機材とギターとをコードで繋いで数度弦を弾き、音量を確認した彼は何を思ったのか観客に目を向ける。

 何かを探すように動く彼の視線は、私の近くを通ったところでその動きを止めた。一瞬目が合ったのは気のせいだろうか。……きっと、気のせいだ。

 彼の不思議な行動に気付いていたらしいボーカルがどこか楽しそうに彼に声をかける。すると彼は何故か真っ赤になって早口で何か反論していた。

 そうこうしているうちに時間が来て、彼をなだめたボーカルがМCを始める。ありきたりな文句の後、一曲目が始まった。

 本当は苦手なライブ特有の大きな音が、この時は気にならなかった。名前も曲も聞いたことがないアップテンポの曲。ボーカルも、ベースも、ドラムも、凄いと思う。けれど。

 私は視線を、彼からそらすことができなくて。ギターを掻き鳴らす彼の姿が、とてもとても輝いて見えて。凄く、格好良いと思った。


「凄かった、って、後で言わなきゃね」


 ライブが終わった後、いつまでも呆けていた私に友人は意味ありげに笑って言った。その言葉に敵わないなあと苦笑しつつも私は頷いた。


 まさかこの後思いきって話しかけたその時に、彼からあることを言われるだなんて思ってもいなかったのだけれど。



ただ君を想って掻きらした

(ほんの少しでも伝わればいいと思ったんだ)(言葉にする勇気が、どうしてもなかったから)




----*-----*----

三々企画より、森崎様リクでしたー
もうどうしようかと思った。
ヘタレでツンデレな男子とか。あえてこいつをヘタツンだと言わせて頂きましょう← ボーカルは全て解っていた、なんて。

見に行った高校の文化祭を思い出してざっと書きました。二時間くらいで←
書き直し覚悟です。リク有り難うございました!!



110921

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ