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□永遠を誓おう
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「良かったな、今日晴れて」



 茜色に染まる街中を走る車の中で、ハンドルを握る彼は唐突に切り出した。



「本当にね。丁度梅雨の時期だから、日付聞いた時はどうなるかと思ったけど」

「花嫁が引き寄せたんだろうね。あいつ晴れ女だから」

「その確信があるからこの日にしたんだね……」



 世の女性が憧れるジューンブライド。それを狙って今月に挙式するカップルは多いとか。興味がなさそうな私の声音に彼は笑う。



「興味ないんだ?」

「だってさ、六月だよ? 梅雨時期真っ只中で湿気バリバリな時に式挙げるなんてどうかしてるよ」



 雨降られたらたまったもんじゃないっての。そう口を尖らせて続ければ、彼はお前らしいな、と笑いを含んだ声で言った。



「まぁ、それでも良かったじゃないか。ブーケもらえて」

「まぁね……」



 視線を落とす。私の膝の上に乗っているのは、美しい花が束ねられたブーケ。

 花嫁のブーケトスで受け取ってしまったブーケ。参加するつもりなんてなかったのに、彼女が放ったそれは前方で騒いでいた女性達を飛び越えすっぽりと私の手の中に入ってしまったのだ。



「参加するつもりはなかったんだけどね……どーしてあんなに投げたかなあの子」



 しかも花嫁と目が合った時、何故か彼女は意味ありげに笑っていた。尋ねても上手くかわされたし。



「……それは、まぁ、頼んだからな」

「は?」



 がたん、と唐突に車が揺れ、舌を噛みそうになった。いや、そんな事はどうでもいい。今この男は何て言った? 慌てて横を見ると、彼はいたって普通にして前を向いたままだった。



「今、なんて」

「頼んだの、俺が。どうせお前参加しそうにないから、思いっきり遠くに投げてくれって」

「どういう意味よ、それ」

「……鈍いよなぁ、本当。まぁ、らしいけど」



 車が止まり、慣性に従って体がわずかに前に傾ぐ。ふと窓の外を見ると、私の家の前だった。けれどまだ降りる気はない。

 彼はおもむろに車のエンジンを切った。訪れる静寂。ひとつため息らしきものをついて、再び彼か口を開く。



「ブーケトスのジンクスは知ってるよな?」

「あれでしょ、受け取った人は次に結婚でき…………!?」



 言いかけて、はたと気付く。私の膝の上にあるのは、花嫁が投げたブーケ。……私が受け取った、ブーケ。



「鈍感なくせに、頭の回転だけは速いよな」



 やっとわかったか、と彼が苦笑する。私は思わずブーケを強く掴む。萎れてしまうけれど、今はそれどころじゃない。だって、この男がやろうとしていることは。

 やけに心に響くような声で名前を呼ばれ恐る恐る顔を向ける。今まで一度も見たこともないような真剣な表情で、彼は私を見ていた。その瞳に吸い込まれてしまいそうで、目をそらすことができなくて。

 彼の手にはいつの間にか取り出されていた小さな箱。そして彼は、一生に一度きりの言葉を紡ぐのだ。





永遠おう

(茜色は、夕日の色か、頬の赤みか)
(私の答えなんて一つに決まってるのに)





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「キウイベア」様に六月お題「茜・静寂・ブーケ」で提出。

 bySpiledose
110611

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