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□桜さらさら舞い散る頃は
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 ひらり、と目の前を舞う薄桃を見て鈴猫は顔をほころばせた。大きく息を吸い込むと仄かに良い香りがする。


「もうすっかり春だねぇ」


 ふにゃりと笑顔を浮かべ隣を歩いている烏にそう話しかけると、彼は此方を見ずに軽く顎を引いた。

 二人が歩いている道は両側に桜の木が生えていて、視線を上げると空を薄桃色で隠すように花を咲かせている。木々の間を二人でゆっくりと歩きながら鈴猫はトンネルみたいだと思った。


 ひらひらと舞い踊る花弁を見ているとなんだかうずうずする。

 耐えられなくなって、鈴猫は烏が驚くか否かも気にしないで飛び出した。胸元の鈴が楽しげな音を立てた。

 ゆっくりと落ちていく花弁の一つに狙いを定め、両手を伸ばす。


「……よっ、ほっ!」


 時には飛び跳ねたりしながら花弁を掴もうとするが、全て失敗に終わってしまった。それでも楽しそうに鈴猫は続ける。

 そんな彼女の行動を特に驚いた様子もなく見ていた烏は、静かに口を開いた。


「……何を、しているんだ?」

「知らない? 桜の花弁をつかまえるとね、願い事が叶うんだよ」

「……そうなのか」


 舞い散る花弁と格闘しながら答えた鈴猫に小さな声で初耳だ、と返す。


「これがまた難しいんだァ。毎年やってんだけど、なかなか上手くいかないの」


 そう言って再び桜に手を伸ばした鈴猫。その様子を見ていた烏は、ふと自分の目の前に舞い降りる一枚の花弁に視線を移した。それを眺めながら何気無く手を差し出す。

 花弁ゆっくりとした動きで空中をたゆたうと、何かに導かれるように烏の掌の上に落ち着いた。それを偶然見ていた鈴猫は少し不満そうな表情を見せる。


「あーっ、烏ずるい!」

「……狡いも何も、偶々だろう」


 冷めたような声音の相手に鈴猫は口を尖らせたが、その目つきがやわらかいのに気づいて今度は優しい笑みを浮かべる。烏に近づいてその顔を覗き込んだ。


「何お願いしてたの?」

「さぁ、何だろうな」


 どうやら話す気は無いらしい。そう悟った鈴猫はふうんと呟いてただ微笑んだ。

 その時、二人の間に一枚の薄桃が舞い降りる。反射的に鈴猫は両手を伸ばした。ぽん、と軽い音を立てて手を合わせる。


「……とれちゃった」


 ゆっくりと開いた掌には、一枚の花弁。あっさりと成功した行為に鈴猫は暫く呆けていた。

 そんな彼女に烏は無表情に問いかける。


「……願い事は?」

「うん?」

「叶えたいから、あんなに飛び跳ねてたんだろ」

「あ、えーとね……」


 すると鈴猫はこてんと首を傾げてうーんと唸り、暫し考えるとニッと笑ってみせた。


「なーいしょっ! 烏も教えてくれないから、アタシも教えない」


 軽やかに笑うと、鈴猫は烏の手を取り強めに引きながら歩き出した。


「ほら、早く行こう? 夕方までに街に着かなきゃなんだから」

「……あぁ、そうだな」


 烏も短く返し、相手の手を軽く握り返す。その目がやわらかく、口角がやや上がっているのは見間違いではないと確信して、鈴猫は嬉しそうに笑った。




さらさら舞い散る頃は
(訊かなくても良いと思ったんだ)
(願い事が何なのか、もう知っているような気がしたから)




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三々企画より灰神楽様リクでした!
孤月と猫番外編ということで。
久々の二人だからキャラが若干変わってるかも……!←


こ、こんな感じでよろしいでしょうか!?
返品可です。何度でも書き直しますよ←

リクエスト有り難うございました!
これからもよろしくお願いしまーす(^∇^)ノシ


110402

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