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□しあわせのはな
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 泣き虫だった、私。

 転んでは泣き、叱られては泣き、雨が降っては泣いて。虫が死んでも、花が枯れても泣いていました。

 そんな筋金入りの泣き虫だった幼い私の傍に、貴方はいつもいてくれました。

 少し乱暴に涙を拭って、怒ったような口調でほらもうなくなって言って。

 中々泣き止まない私に呆れながらも、結局は泣き止むまで頭や背中を撫でていてくれました。



 そんな私の泣き癖がぴたりと止んだのは、大好きなチューリップの花が枯れてしまった、あの日。

 萎れて下を向いてしまったその姿が可哀想で、悲しくて。いつものように泣き出した私にとうとう愛想がついてしまったのか、貴方は何処かへ走って行ってしまいました。

 貴方に嫌われてしまったのだと思ってさらに泣いていると、しばらくして誰かに肩を叩かれて。

 顔を上げると、目の前に突き出されたのは、折り紙で作られた少しいびつな花。

 涙を流しながら首を傾げた私に、貴方は笑顔で言ったのです。


「はなならおれがたくさんつくってやる。ころんだらばんそうこうはってやる。おこられるときはいっしょにおこられてやる。ずっと、おまえをまもってやる。だから、もうなくな」


 ずっと、そばにいてやる。


 貴方にそう言われてから、私は泣かなくなりました。

 転んでも痛みを我慢するようになりました。

 怒られた時は貴方の手を強く握りました。

 悲しくなったら胸に手を当ててぎゅっと目を閉じました。

 泣き虫な私は、いつの間にか何処かへ行ってしまったのです。

 どんな時でも、貴方が傍に居てくれたから、私は強い私でいられたのです。



 あの日から時は流れ、何度か季節が巡って。

 大人になった私の前に立った貴方は、あの日と全く変わらない笑顔で私の手を握りました。

 左手の薬指に通されたのは、優しい光を放つ銀色の指輪。


「俺は、お前の傍にずっと居るよ」


 優しい声音で、私の髪を鋤きながらそう言うから。

 私は震える声で、貴方の名前を呼びました。返事をしようとして、言葉が出て来なくて、ただ頷くばかりで。

 そんな私を見て、貴方は昔のように眦を下げて笑うのです。


「……泣くなって」


 頬を伝う感触は、間違いなく自身の涙でした。

 どうやら私は、また泣き虫になってしまったみたいです。

 貴方は笑いながら少し乱暴に止まらない私の涙を拭って。そして、怒ったような口調の代わりにとても穏やかな口調で私の名前を呟きながら私を抱きしめました。





(それは、貴方がくれた花)
(少しいびつな、赤いチューリップ)



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「キウイベア」様に三月お題「涙」で提出。

 bySpiledose

110314

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