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□君だから恋をしたんだ
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 彼女は、尊い人だと思う。

 美しくて、聡明で、気高くて。時に優しく、時に勇ましく。彼女の周囲の人々は皆、彼女の事を女神と称すのだ。

 だから、いつも不思議に思う。どうして僕が、こんな何処にでも居そうな平々凡々な僕が、彼女の隣に居られるのかと。彼女は何故、僕を選んだのかと。

 何の取り柄もない僕が、彼女と釣り合えそうにもない僕が。どうして、こんな幸福を手にしてしまったのか。

 そんな疑問をふと口に出すと、それを聞き逃さなかった彼女はくすくすと笑った。鈴が転がるような声が溢れる。


「私と居ることが不満なの?」

「そういうことじゃないよ。ただ不思議に思っただけだって」


 そう、これは純粋な疑問。言葉はそう取られてしまうかもしれないけれど、決して今の状態が嫌な訳ではない。第一、彼女もそれはわかりきっている。


 ふうん、と彼女は気のない返事をして、少し黙る。長いまつ毛に縁取られた黒曜石の瞳が伏せられ、その横顔は化粧もしていないのにとても美しく。心の中で思わずため息をついた。


「──愚問だね」


 彼女は口角を少しだけ上げて囁いた。どういう意味かと問うと、そのままの意味だよと返される。


「そんな疑問なんて、取るに足りないものだよ。どんなに首を傾げても、私が君を好きであることに変わりはないし、君が私を好きであることにきっと変わりはない」

「…………」


 思わず空を仰いだ。時折こうやってさらりととんでもないことを言う彼女は本当に凄いと思う。……というか、こういうのは普通なら男である僕が言うべき台詞なんじゃないだろうか。

 複雑な表情を浮かべた僕を見て、彼女は微笑んだ。


「……でも、まぁ。一つだけ教えてあげようか」


 ゆるりと口元が孤を描く。あぁ、これは何か爆弾を落とす前の表情だ。

 身構えるよりも先に、紅い唇が言葉を紡ぐ。


「いくら君より格好良くて、器量も良い人間が現れたとしても。私は君以外になびくことは絶対にないよ。だって、私は」





 ……だから、そういう台詞は僕が言うべきものだと思うんだけど。

 一つ盛大にため息をついて、僕は赤くなった頬を隠すように彼女から顔を剃らした。


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結構前にばーっと書いたもの。
「愚問だね」って女の子に言わせたくて書きました←

110304

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