Gray-Wind
□第一話【風を纏う者】
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「その方、ですね」
「うん。帰っている途中で見つけたんだ。血まみれでびっくりしたよ」
鳶色の癖のある髪に鶯色の優しげな瞳を持つ彼はそう言いながら病室に入り、ついさっきまで少年が使っていたベッドにそっと少女を寝かせた。
「深い傷はそれほどなかったけど応急処置はしておいたよ」
「さすがは『時の守護者』ね。そこまでしてくれるなんて」
「いやいや。……僕にはこれぐらいしかできないから」
少女に毛布を被せ、男は中指で少しずれた眼鏡を掛け直す。
「………何があったのかは知らないけれど。でも、この子には………」
「ええ。力があるわ」
ナギは応えながら少女に手を伸ばし、そっとその額に触れた。
少女はところどころ擦り傷を作っていたが、今は落ち着いた様子で規則正しい寝息を立てている。
「ヒカリの夢に出てきたもの。きっと立派に『風の守護者』の役割を果たしてくれるわ。――……そしてこの子はおそらく……」
続くナギの言葉に男は驚く。眼鏡の奥の目が大きく開かれた。
「………!? じゃあ、呼び戻したほうが」
「いいえ。今この状態を彼に告げれば、大変なことになるわ。彼女がこんな姿だって知ったら、さすがに落ち着いてられないでしょう。不眠不休で付きっきり看病、なんて有り得るわ」
「……たしかに」
「今は、『近くに倒れていた身寄りのない少女』としておきましょう。ここに入っていいのはわたしとルイ、そしてあなた。いいわね?」
「っは、はい! みんなに伝えておきます」
「お願いね。守護者のほうはルイがよろしく。イキがいいのが何人かいるから」
「うん」
ルイは頷き、何を思い出したのか可笑しそうにふっと笑いをもらす。そして楽しそうに話を切り替えた。
「ところで、ゼンはどこに行ったんだろうね?」
「いつもの場所じゃない? あの子は小さい頃から暇さえあればあそこに行くんだもの」
「それもそうだね」
二人は優しい笑みをこぼした。