Gray-Wind

□第一話【風を纏う者】
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「良いのです。たとえ力を失っても、杖は私達の象徴でもあるのですから」

「色々とすまない」

「いえ。……では、これを」


 アルデに湯呑みを差し出される。少し濁った液体からは独特の匂いがした。


「薬湯です。もう一眠りすれば体力が回復するでしょう」

「ありがとう」


 苦い液体が喉を通る。少し顔をしかめながら空になった湯呑みを返すとゼンは再び横になった。傍で眠る少女の手を己の手で包み、静かに目を閉じた。








 ゼンが再び目を覚ました時、少女は傍にいなかった。起き上がり、近くに置かれていた自分のコートを羽織る。部屋のドアを押し開け、外へ出た。

 記憶をなぞりながら探るような、けれどしっかりとした足取りで階段を探し上へと上がる。最上階にある扉を開くと、光が一気に差し込み、視界が真っ白になった。徐々に空の色と土色の建物が見え始める。

 その中で、屋上の端に座って遠くを眺めている少女の姿を見つけ、ゆっくりと近付く。ゼンに気付いた少女はにっこりと笑って立ち上がった。その瞳は、元の緑がかった黒に戻っていた。


「ゼン。身体はもう大丈夫なの?」

「あぁ、お陰でな」


 頷くと、少女は安堵の表情を浮かべる。訪れた沈黙の後、ゼンはゆっくりと問いかけた。


「……ユキ、なんだな?」

「――うん、そうだよ」


 目を細め、彼女は肯定する。ゼンは一瞬顔を歪ませ、唐突にユキの肩を掴んで引き寄せた。彼女の顔が肩に当たるが気にしない。


「わっ、ぜ、ゼン!?」

「すまない、気付かなくて」

「……いいよ、そんなこと」


 抱き寄せられたままの状態で、ユキは苦笑する。


「ゼンは覚えていてくれた。それだけで、充分だよ」


 静かに手をその広い背に回し、ユキは目を閉じた。


「……久しぶり、ゼン」







fin
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