Gray-Wind
□第一話【風を纏う者】
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《ending》
目が覚めると、そこは見慣れない部屋だった。自分がベッドに寝かされていることに気付く。
「――あぁ、目が覚めましたか」
声をかけられ目を向けると、手に湯呑みを乗せた盆を持ったアルデが立っていた。
「ここは――」
「ヴェントルーチェの居住区です。あれから半日以上は経っています」
つまり、自分はそれだけ眠っていたことになる。
「あいつ――もう一人の守護者は?」
「彼女なら、そこで眠っていますよ」
姿の見えない少女の所在を問うと笑って示される。目を向けると、ゼンが眠っていたベッドにもたれ掛かるようにして眠る少女の姿があった。肩には毛布が掛けられている。
「ずっと傍についていましたよ」
「……そうか」
手を伸ばし、起こさないようにその頭をそっと撫でる。
どうして気付かなかったのだろう。外見も、表情も、口調も、動作にも。幼い頃の彼女の面影があったのに。違う名を名乗られただけで、彼女が自分の知る人物ではないと判断してしまったのだ。
――お前も、忘れてなかったんだな。
約束とも言えないような別れ際の言葉を、彼女もまた覚えていたのだ。
「守護者様方は、どのようなご関係で?」
ゼンの様子を微笑ましく見守っていたアルデの問いかけにゼンはゆるく笑んだ。
「昔馴染みだ。大切な……相棒でもある」
「そうですか……杖の件ですが、"カギ"は回収済みということで、よろしいでしょうか」
「あぁ。杖は回収しない。"カギ"としての力は失ってしまったがな」
心配そうにゼンが目を向けると、アルデは穏やかに笑う。