Gray-Wind

□第一話【風を纏う者】
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 肯定するかのように彼女は笑む。そして数歩前に出ると、刀を一度横に振った。ごう、と風が唸る。


「ヴィリア」


 少女がその名を呼ぶと、風が集まり翼を持つ女性が現れた。


――"カギ"……じゃあ、アレは、風の


「力を貸して」


そう短く少女が言うと、ヴィリアはどこか楽しそうに返した。


『内なる力を開放すればいい。やり方はわかっているはずだ』

「……そう、だね」


 何かに気付いたかのように彼女は頷く。そして静かに目を閉じ、言葉を紡いだ。


「"我の心は風となり、万の心を駆け抜ける
我の瞳は風となり、広く世界を見渡そう
風達よ思い出せ、我と交わした契約を
風達よ今目覚め、我と共に戦い給へ"」


 淡い緑色を帯びた風が、少女の周囲に満ちる。それはやがて風疾へと集まり、刀身にまとわりついた。

 風を纏った少女は地を蹴り魔物へと向かう。

 魔物は黒い霧を身に纏うと姿をゼンに変え、にやりと笑った。


「お前に俺が斬れるのか? 大切だと思っている、この姿を?」


 少女は無言で駆け、一度刀を振るう。すると突風が起こり、魔物が纏っていた黒い霧が霧散した。


「なっ……!?」

「私は、迷わない。大切なモノを取り間違えたりしない」


 強い口調で告げ、彼女は刀を振り降ろした。魔物の断末魔が風に吸い込まれて消える。

 終わったのだ。そう思うと、ゼンは体の力を抜いた。細くなる視界で少女の背をとらえ、心の中でその名を呼ぶ。


――ユキ……


 意識が暗転する直前、少女が振り返ったような気がした。
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