Gray-Wind
□第一話【風を纏う者】
37ページ/39ページ
肯定するかのように彼女は笑む。そして数歩前に出ると、刀を一度横に振った。ごう、と風が唸る。
「ヴィリア」
少女がその名を呼ぶと、風が集まり翼を持つ女性が現れた。
――"カギ"……じゃあ、アレは、風の
「力を貸して」
そう短く少女が言うと、ヴィリアはどこか楽しそうに返した。
『内なる力を開放すればいい。やり方はわかっているはずだ』
「……そう、だね」
何かに気付いたかのように彼女は頷く。そして静かに目を閉じ、言葉を紡いだ。
「"我の心は風となり、万の心を駆け抜ける
我の瞳は風となり、広く世界を見渡そう
風達よ思い出せ、我と交わした契約を
風達よ今目覚め、我と共に戦い給へ"」
淡い緑色を帯びた風が、少女の周囲に満ちる。それはやがて風疾へと集まり、刀身にまとわりついた。
風を纏った少女は地を蹴り魔物へと向かう。
魔物は黒い霧を身に纏うと姿をゼンに変え、にやりと笑った。
「お前に俺が斬れるのか? 大切だと思っている、この姿を?」
少女は無言で駆け、一度刀を振るう。すると突風が起こり、魔物が纏っていた黒い霧が霧散した。
「なっ……!?」
「私は、迷わない。大切なモノを取り間違えたりしない」
強い口調で告げ、彼女は刀を振り降ろした。魔物の断末魔が風に吸い込まれて消える。
終わったのだ。そう思うと、ゼンは体の力を抜いた。細くなる視界で少女の背をとらえ、心の中でその名を呼ぶ。
――ユキ……
意識が暗転する直前、少女が振り返ったような気がした。