Gray-Wind

□第一話【風を纏う者】
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「――っ風疾!!」


 大きく跳躍してそれをかわす。降り立った時に第二撃が出され、これは避けられないと悟ったカナリは風疾を構えて口を開いた。


「春風」


 とたんに風が起こり、カナリの周囲に集まって壁を作る。それは、ゼンが放った炎からカナリを守った。


「!……お前、その力は」

「私が、カナリなの。魔物なんかじゃない、風の守護者のカナリ」


 身体の一部のように風を扱う彼女に驚いて攻撃の手を止める。無防備な状態で呆然と呟く間、しかし彼女は反撃さえしなかった。そこでようやくゼンは自分の失態に気付いた。


「だから早くその魔物から離れ――っゼン!」


 目の前のカナリが目を大きく開くのと同時に背後で感じる気配。振り返るも、防御が間に合わないことを悟る。斬られるのを覚悟で反撃しようと考える前に身体が動きかけた……が。

 肩を押される感覚。鈍い音と共に視界が反転した。何が起こったのかわからないまま視線を向けると、揺れる黒髪とどさりと誰かが膝をつく音。ゼンはそれが誰なのかを知る。

 カナリが片腕を押さえてうずくまっていた。地面にはぽたぽたと赤い斑点が作られる。

 考えるよりも先に身体が動く。立ち上がって刀を握り、片腕を振りかぶって更にカナリを傷つけようとしていた魔物の胴体を狙う。寸でのところでかわされたが構わず何度も斬りかかった。

 カナリの姿のままの魔物は顔を歪め、苦々しげに吐く。


「あーァ、失敗。相討ちの所を殺ろうって思ってたのに」


 それでも、と魔物は口の端を吊り上げて笑った。


「出直すわァ、"カギ"もそう簡単にはくれなさそうだしィ。また後で、まとめて味わってあげる」


 大きく跳躍し、魔物は姿を消した。ゼンは顔を歪めてそれを見ていたが、低く呻くカナリの声に気付いて駆け寄った。


「カナリ! ケガは」

「大丈夫。大したことじゃ、ないよ」


 無理に笑うカナリの声は、震えていた。見るとコートが避け、指先まで伝った血が地面を濡らしている。コートのお陰でいくらか軽減されただろうが、浅くはないだろう。


「歩けるか?」

「……うん」


小さく頷く彼女の二の腕を掴み、立たせる。痛みを堪える小さな体を抱くようにして支えながら、洞窟の中へと誘導した。
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