Gray-Wind
□第一話【風を纏う者】
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ゆっくりと刀を拾い、一度振って血糊を飛ばす。次に地に向かって何か呟くと、強い風が吹き、目の前の地面が深くえぐられた。その中に亡骸を入れ、土をかける。
辺りを見回し、少し離れた場所に刀――師の刀が落ちているのを見ると、それを墓標の代わりに突き立てた。
その前で暫く胸に手を当て目を閉じていたが、ふと目を開けて空を見上げる。
――行かないと。あの人の所に行かないと。私の願い……二人の約束を果たしに。
再び自分の刀を握り、今度は先程とは違う振り方をすると、ひとりでに浮かび上がって夜空へと上昇した。
静かに揺れる黒く長い髪。僅かに幼さが残る顔立ち。
そして前を見つめる緑がかった黒い瞳には、意思の強い者が持つ強い光が宿っていた………
…………同時刻。闇の底で、影達が話していた。
「若様。『灰色の風』が………」
「解っている。今は放っておけ」
「!? ですが」
「今は好きなようにさせておけと言っているんだ。時が来れば、迎えに行くさ」
まるで全てを飲み込むかのように、闇は、笑った。
「力が目覚めれば、な………」