Gray-Wind
□第一話【風を纏う者】
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勢いに任せて降り下ろす。だが、それは簡単に防がれた。
「──っ!?」
強い力で跳ね返され、空中で回転しながら体勢を整え着地する。
砂埃が治まり、視界が開ける。
その魔物は女性のような姿をしていた。細身のシルエットだけ見ればヒトとそう変わりはないのだが、肌は赤黒く口は異常に尖った耳元まで裂けている。そしてその片腕は鋼のような鈍い光沢を持っていて、手は指の代わりに鋭く長い爪が生えていた。
魔物はカナリを見るとニイッと笑った。
「アラァ、もう来ちゃったの? 残念ねェ、もっと遊びたかったのに」
カナリの目の前で魔物は爪に付着していた赤を舐め取る。どこか恍惚とした表情を浮かべ、歌うように言った。
「やっぱり、ヒトの血は甘いわァ。──守護者の血は、もっと甘いのかしらねェ?」
「──!」
カナリは魔物から放たれた殺気に微かに身を震わせた。だがしっかりと魔物を見据え、風疾を構え直して口角を上げる。
「……試してみたら?」
「そうねェ……じゃァ、そうしようかしら」
ぎらり、と目が鋭く光る。魔物が地を蹴るのと同時にカナリは走り出した。目指すは東。ゼン達ては真逆の方向へ。
「逃げられるとでも思ってるのォ?」
魔物は高く飛び上がり、カナリを飛び越えて進路を防ぐ。
これ以上引き離せないと悟ったカナリは素早くその動きを攻撃へと転じさせた。魔物の懐に飛び込み、一閃。一拍置いて絶叫が響く。
続けてもう一太刀振るおうとしたその時、腹を殴られそうになって咄嗟に後ろに跳んだ。殺意の込められた目に射抜かれる。
「──ッ油断したわァ。この小娘が……でも、もうそうはいかない」
斬られた腹部を庇いながらも魔物は高らかに笑う。するとどこからともなく黒い霧が現れカナリの視界を遮った。
──魔物の能力!!
コートの袖を口に当て、霧を吸わないようにしながら周囲を伺う。少しして背後に何かが動く気配を感じ、振り向きざまに斬りかかった。
刃を合わせた甲高い音が響き、カナリは目を見開く。彼女の目の前にはこの場にいるはずのない人物が立っていた。