Gray-Wind
□第一話【風を纏う者】
19ページ/39ページ
だが、ゼンはもう一度口を開いた。
「──なぁ」
「…………何?」
ゼンは何かを言おうと口を開いて、閉じる。そして迷うように目を動かすと、思い切ったように再び口を開いた。
「少し、訊きたいことがある。お前の武術の師は誰だ?」
先程の手合わせの時、ゼンは既視感を覚えていた。誰かと、似ているような気がする。そう思ったのだ。
ゼンの問いにカナリはどこか懐かしむように答えた。
「……育ててくれた人。幼い私に、生きる術を教えてくれたの。──今はもう、いないけど」
「──っ悪い」
余計なことを聞いてしまった気がしてゼンは思わず謝る。カナリは首を横に振って大丈夫だと応えた。
「すごく、強い人だったよ。私なんかが足元にも及ばないくらい。すごく、尊敬してる。今でもね。……ゼンも強いけど、誰に教えてもらったの?」
「俺か?」
同じように返され、ゼンは方眉を上げた。
「小さい頃──守護者になる前は、親父に教えてもらってたな。こっちに来てからはルイ兄──『時の守護者』とかによく手合わせしてもらってた。今は他の奴らともよくする。基礎は親父だけど、それからは我流みたいなもんだ」
「そっか」
カナリはゼンの横顔を見ながら相槌を打つ。自分達のことを楽しそうに話す彼を見て、頬をゆるませた。
「奴らは皆癖は強いけど、強い奴らだ。初対面だったら少し厄介な奴もいるが……仲間になれば皆いい奴だから。カナリもすぐに馴染めるさ」
優しい声音で言われ、カナリは笑顔で頷いた。
「……うん」