Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
51ﾍﾟｰｼﾞ/51ﾍﾟｰｼﾞ
「カンドーの再会、か……よかったな！」
「うん。本当に、良かった」
抱き合う彼らの様子に守護者達はほっとした面持ちで見守る。どこか眩しいものを見るような目つきで眺めていたヒスイは、ふっと息を一つ吐くとからりとした声で仲間に声をかけた。
「さて、一時保護なりカリエンテ再興なり、これから先のことは自分達で決めるだろ。オレらの仕事はここで終わりだな。――ゼン、最後に送り火を」
「あぁ」
ヒスイに促され、ゼンは頷いて再び紅蓮を抜く。守護者の炎でもう一度この一帯を焼き、この戦いで命を落としてしまった人々の魂を空へと送るのだ。守護者には、そういった役割も与えられている。
ゼンが銘を呼びながら構え、一閃しようとしたその時、別方向から呼び止められる。
「待て」
「……どうした、グレイ？」
声を上げたのはグレイルだった。ゼンが動作を止めて片眉を上げると、グレイルは何故かちらりとユキを見て、すぐに視線を外す。
「……ユキ、ゼンを手伝え」
「え？」
「！！」
彼の発言に他の守護者たちは耳を疑った。驚き戸惑いを見せるユキに、グレイルは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
「風で炎を広げろと言ったんだ。できない訳ないだろう」
「あ、う、うん。できるよ」
「……なら、さっさとやってくれ」
ぎこちなく肯定したユキにそれだけ言うと、グレイルはすぐ目を伏せてしまった。えっと、といまだに混乱しているユキを見かねて、今度はゼンが声をかける。
「ユキ」
ゼンに呼ばれ、ユキは目を合わせる。彼は、瞳の奥で穏やかに笑っていた。
「大丈夫だ。やろう」
「――うん」
彼女が頷いたのを確認したゼンは、紅蓮を構え直し横一文字に空を斬る。すると、斬撃から淡い色をした炎が生まれ、ゆっくりと前方へと広がっていった。不思議な暖かさを持つその炎は触れたものを焼かず、包み込むようにカリエンテの街を覆っていく。
「……いこう、風疾」
しばしその様子を見つめていたユキは、炎が風に吹き消されてしまわない程度に広がったと判断すると得物に呼びかけ、構えた。前を見据えながらひとつ深呼吸して、ゼンと同じように空を斬る。
風に乗った炎が広がっていくイメージを思い描く。どうか、この地でついえた魂がゼンの送り火に導かれ、迷うことなく空へ還りますように。そう、願いながら。
一陣の風が吹く。それまでゆっくりと広がっていた送り火は、柔らかな風に煽られて、いっそう淡く煌めきながら急速にその範囲を広げていったのだった。