Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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「へぇ……」
思っていたよりも大きな組織だったらしく、ユキはゼンの話にただ驚くばかりだった。そんな様子の彼女に笑うと、ゼンは軽くその肩を押す。
「注文はこっちだ。さっさとしないと場所がなくなるぞ」
「あっ、うん」
ゼンに連れられ食堂の端の方を通り、奥にあるカウンターへと向かう。その途中、テーブルから何度かちらちらとこちらに視線を投げかけられた。
何となくユキが気にしていると、ゼンが珍しいのだと苦笑する。コートのデザインが一番特徴的な守護者は周りの者にすぐ顔を覚えられ、かつ新顔となれば興味津津な視線は避けることができないのだと説明した。
二人はカウンターの前に立った。奥の厨房では白い制服を着た料理人たちが忙しなく作業をしている。ゼンはその中でひときわ目立つ白髪の背に声をかけた。
「シラガ、Aセット二つ――」
頼む、と言い終る前に、ゼンの顔面めがけて何かが飛んできた。しかしゼンは最初から解っていたようで、軽い音をさせて片手で受け止める。驚くユキの目の前で白髪が揺れ、その下から低い声が聞こえた。
「シラガって呼ぶなって何度言ったらわかるんだよ……」
怒りを含んだ紫色の目がゼンを睨む。ゼンよりはいくらか年上であろう、まだ若い男だった。対するゼンは相手の拳を受け止めたまま、その視線を全く気にせず返した。
「何でも良いから早く作れよ。二人分だからな」
「るっせーな、わかったよ。毎回すかした顔で受け止めやがって……って、ん? 二人分?」
「あぁ、こいつの分も頼む」
ゼンが隣に立つユキを示すと、拳を納めた青年は初めてその存在に気付いた。紫色の瞳にユキが映され、彼女は笑む。
「はじめまして」
「え、あ、ハジメマシ……って、もしかして新人?」
「もしかしなくてもそうだな」
「マジで!! 『風の守護者』かー、そっか、お前らペアになったんだよな」
司令官が言ってたぜ、とゼンの言葉に納得したように青年は頷く。