Gray-Wind

□第二話【紅き瞳の奥底の】
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「ああ」


 短く返して、ゼンはユキとともに走り出す。駆けながら魔物に向かって一閃すれば、その軌跡が炎となって彼等を焼いていく。次いでユキも同じように風疾で空を薙ぐと、強い風が生まれ炎を煽った。何倍にも勢いを増した炎は、魔物の群を次々と灰燼へと変えていく。


「……!」


 三人であれだけ苦戦していた戦闘が、『カギ』を手にした二人であっけなく終わっていく。その光景を目の当たりにした双子は瞠目し、そして肩を震わせた。

 この数年間肩を並べて戦ってきたゼンが見せたそれまでとは段違いの力、その威力に対する畏怖。二人の『カギ』保有者に見せ付けられた力の差への羨望。……そして、いつか自分たちもその力を手にすることができるのだという期待。様々な感情が、一瞬のうちに二人の中で巡った。


「一気に片付けるぞ、ユキ」


 炎の海でまだ蠢く影を見つけたらしいゼンが声を張り上げる。彼の視線の先には、そのほとんどが焼き尽くされてもなお立っている数匹の魔物の姿があった。大方、何かしらの能力を持ったCランクの魔物だろう。


「――わかった」


 すっと紅蓮を構えたゼンの様子に、相棒が何をしようとしているのか瞬時に理解したユキは頷き、同じように風疾を構えた。


「業火招来」

「青嵐斬波」


 ありったけの力を込めて、二人は同時に一振りを放った。斬撃から生まれたのはこれまでとは比べ物にならない程の勢いを持った業火。灼熱の炎が舐めるようにいまだこちらへと向かってくる魔物を焼き尽くしていく。

 ふるり、とゼンの傍らで炎の海を眺めていたホムラが突然身体を震わせる。爛々と紅い双眸を輝かせた獣は、衝動を抑えきれない、とでも言うようにひとつ吠えた。狼を思わせるような遠吠えの後、ゼンが止める間もなく走り出す。

 どこか楽しそうに炎の海に飛び込んだホムラは、その中を軽やかに走り回った後、奥でいまだ焼かれながらも原型を留めゼンたちを襲おうとしている魔物へと一直線に駆けた。目にもとまらぬ速さで魔物の目の前に躍り出て、炎に照らされて赤く光る牙をむき出し、その喉笛に噛みつく。

 一際大きい火柱が上がり、ホムラに噛みつかれた魔物は断末魔を上げて今度こそその息の根を止めた。

 敵を全て焼き尽くした炎が少しずつ静まっていく。焼け野原となったその一帯の中央で、炎の獣はもう一度遠吠えをする。紅く揺らめく毛皮が陽を受けて輝き、その光に溶け込むように役目を終えたホムラは姿を消した。
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