Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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いつものように髪を高い位置で一つに結い終え、もう一度時計を見る。そろそろ食堂に行くべきかと考え、ユキは風疾を片手に部屋を出ようとドアを開けた。
「……!?」
開けてすぐ目に入ったのは廊下ではなく灰色。驚いて半歩下がり視線を上げると、自分と同じように驚いているゼンと目が合った。
「ゼン! おはよう、どうしたの?」
ユキが小首を傾げながら訊くと、ゼンは穏やかにおはようと返して続ける。
「来たばかりだし、ここの中はまだ慣れてないだろ? 一緒に朝飯を食おうと思って呼びにきたんだ」
「そうなんだ。有り難う、丁度行こうと思ってたんだ」
頬を掻きながら言ったゼンの申し出にユキは嬉しそうに笑って同意した。
食堂までの道を二人並んでぽつぽつと話しながら歩く。階段を数回使い、時折廊下を曲がったりしながらしばらく歩いていると、だんだんと人々の声が聞こえてきた。天井の高く広いホールの入口で彼らは一度足を止めた。
「改めて。ここが『光の塔』の食堂だ」
朝食の時間のせいか、食堂は多くの人で賑わっていた。手前に置かれている大きな長机はもちろん、奥の丸テーブルも半分以上が埋まっている。ユキは珍しそうにきょろきょろと辺りを見回した。
「こんなに人がいたんだね」
「守護者以外にも役割を持つ奴等は大勢いるからな。ナギの補佐は勿論、学者や技術者、あと『先駆』の奴等とか」
「さきがけ?」
「世界各地に散らばって情報収集をする者のことだ。魔物の大量発生をすぐに連絡したり、古い伝承や不思議な現象の情報を集めたりする。ヒカリの力だけじゃわからないことも沢山あるからな」