Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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《act.4》
不思議な夢を、見ていた。
煌々と燃える炎の中、少女が眠っている。膝を抱えるように丸まって眠る彼女の表情は、炎の中だというのに酷く安らかで。肌を熱い炎が舐めているのに、不思議と焼けている様子はなかった。
彼女はきっと、ヒトではないのだと直感した。自分の知る風の化身と似たような雰囲気を、この少女は持っている。
柔らかそうな深紅の髪がふわりと揺れ、閉じられていた瞼が微かに震える。長い睫毛に縁取られたルビーのような大きな目が現れた。
『――あたたカイ、におイガスル』
拙い声が聞こえた気がした。ひくり、と少女は鼻を動かすと顔をこちらに向ける。二つの紅玉が、こちらを見た。
『セェーン……? ちがウ、にテル、デモ、ちがウ……かぜノにおイ……ヴィリア、ノにおイ。ソウダ、アナタハ』
ことり、と首を傾げた少女は、やがて何か思い当たったのか頷いた。花が綻ぶような笑みを向けられ、ユキは困惑する。この少女は、自分のことを知っているようだったが、ユキには全く身に覚えのないことだった。
あなたは誰、とユキが問いかける前に、少女はついと炎の中から出てユキの目前に立った。少女が纏っていた衣は、炎でできているのだろうか、不安定に赤く揺らめいていて幻想的だった。けれど、近くに居ても不思議と熱さは感じなかった。
『あイタカッタ、――――』
嬉しそうに話しかけられたが、続く言葉は理解できなかった。異国の言葉、と表現すれば良いだろうか。聞いたことのない言語だ。
「……あなたは、誰なの?」
ユキがようやく尋ねると、少女は紅い目を光らせた。
『ホムラハ、ひ。ヴィリアト、おなジ。ちがウ、デモ、おなジ。であイノときヲ、まツもの』
彼女は『ひ』――『火』。ヴィリアと、同じもの。
もしかして、とユキは目を見開いた。彼女がどんな存在なのか気づいたのだ。
『ズットまッテタ。ズット、ズット。みツケテクレルノヲ。ズット、あイタカッタノ……』
胸に手を当てて、少女は囁く。喜びと、切なさと、興奮を滲ませた声で、彼女はユキに言った。
『あワセテ。ホムラヲわたシテ。ソウスレバ、ちからヲアゲレルカラ』