Gray-Wind

□第二話【紅き瞳の奥底の】
35ページ/51ページ

「ヒスイとサンディラは此処に居ろ。行くぞ、リア」

「……待てよ」

「!」


 グレイルの言葉に妹が頷こうとしたその時、不意に声が響いた。眠っていた二人のうちの一人が、目を覚ましていた。


「ゼン……!」


 状態は、と思わず口に出したヒスイに、ゼンは大体回復したと刀を片手に起き上がりながら短く返答する。確かに肩にあった傷は塞がっていて、もう完全に癒えているようだった。


「俺も行く。二人だけであいつらを相手にするのはさすがにきついだろ」

「……ユキは……どうするの?」


 コートを着直すゼンにそう問いかけたのはアミリアだった。気遣うような、探るような、何かを試すような目で、ゼンを見る。


「……ゼンは、大丈夫? ……ユキを……置いて行っても」

「――……」


 その問いに、彼は数秒間黙考した。まだ眠っているユキの顔をしばし眺め、やがて何かを決めたのか徐にコートの襟元に手を差し込む。コートの下から何かを取り出したのを見て、アミリアたちは息を飲んだ。


「ゼン、それ……!」


 微かに金属が擦れる音を鳴らし、ゼンは首に下げていたそれを外すとユキの右手に握らせた。自分のそれよりも細くしなやかな、けれど自分と同じように修練を重ねた手に己の手を重ね、祈るように目を閉じる。

 それがゼンにとってどんなものであるか、その動作が何を意味するのか、説明を求めなくとも他の守護者たちには解っていた。

 最後にユキの顔に掛かっていた黒髪を梳くように優しく払い、ゼンは立ち上がる。


「行くぞ」


 煉瓦色の瞳を赤く光らせて、彼は微かに口角を上げた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ