Gray-Wind

□第二話【紅き瞳の奥底の】
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《act.1》

「新人はゼンと組むんだそうだ」


 空がうっすらと白み始める早朝。

 『光の塔』の裏手にある森の入口に佇む一本の大木。その幹に背を預けている青年が言葉を落とした。


「……本当に?」


 その言葉を拾い上げたのは囁くような小さな声。青年が寄りかかる大木の枝に声の主が腰かけている。


「ヒカリが言ったんだ。間違いない」

「……他の皆は、もう、知ってるのかな」

「おそらくは。今日あたり、あの馬鹿が騒ぎを起こすんじゃないのか?」

「……かも、しれないね」


 青年の言葉にくすくすと笑い声を洩らすもう一人。その様子につられるように、青年はほんの少し表情を崩した。

 ひとしきり笑うと、木の上の人間は青年に問いかける。


「……強いのかな、その人」

「さあな……まあ、おれたちと同じ字を持つからには」


 その問いに、青年は目を伏せて答える。日の出と共に徐々に明るくなる森の中、深い緑と橙のラインが入った濃い灰色のコートが周囲の景色に溶け込めず少し浮いて見えた。


「強くなければ、おれは認めない」







 『光の塔』内にあるとある部屋。室内と廊下を繋ぐドアには「Wind」と刻まれた銀のプレートが付けられていた。一人部屋として十分な広さを持つその部屋には、ベッドやミニテーブルなどの家具が備え付けられている。

 部屋に一つだけある窓の、淡い緑色のカーテンの隙間から差し込んだ朝日がベッドで眠る部屋の主の顔を照らして目覚めへと誘う。

 部屋の主は光から逃げるように枕を抱きしめ顔を押しつけて数秒唸った後、緩慢な動作で上半身を起こした。


「…………」


 ぐるりと周囲を見回し、寝起きで覚醒しきっていない頭でここはどこだったかと考える。しばらくして、昨晩自分の部屋だと案内されたことを思い出した。

 『光の塔』内の、自分の部屋。慣れない部屋でよくぐっすり眠れたものだと我ながら感心する。どうやら自分はどこでも深く眠ることができるらしいとここに来てからのことを思い返して苦笑した。

 一度大きく伸びをして枕元に置かれた時計を見やる。昨夜別れ際に教えてもらった朝食の時間まで十分に余裕があることを確認して、準備を済ませようとユキはベッドから降りた。
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