Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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「……血の匂いが濃くなってる」
顔を歪めたサンディラの言葉に、ヒスイも眉間に軽く皺を寄せて顎を引く。先に階段を駆け上がった彼女は、目にした光景に思わず声を上げた。
「ゼン、ユキ!」
外へと飛び出したヒスイの様子に二人は視線を交わし、その後を追いかける。そして状況を確認すると、一方は目を大きく開き、そしてもう一方は息を呑んだ。
座り込んだ擦り傷だらけのユキの腕の中で、ゼンがぐったりとしていた。彼の左肩あたりには深い切り傷があり、傷口周辺のコートが深い色に染まっている。完全に意識を失っているゼンに対して、彼を抱えているユキは青ざめていて、意識はあるものの朦朧としているようだった。しかし、その腕はしっかりとゼンを抱いて放すまいとしている。
駆け寄ったヒスイが声をかけると、ユキは絞り出すような声を出した。
「ヒ、スイ……ゼンを……」
「よくここまで来たな、ユキ。ゼンはオレが治す」
「……応急、処置は、……ヴィリアが、してくれた、から……」
「わかった。とりあえず、ゼンは預かる。お前も休め」
「ごめん、なさい……ありが、と……」
ユキの意識がなくなると共にゼンを抱いていた腕の力も抜ける。ヒスイは倒れかかった二人を受け止め、ひとつ息を吐く。
「……二人を運ぶぞ。グレイ」
「わかってる」
ヒスイの指示にグレイは頷き、ゼンを抱えた。ヒスイもユキを抱え、立ち上がる。
「ヒスイ、オレは?」
「サンは結界を張ってくれ。うんと強いヤツな」
「おう!」
二人が階段を降りて行った後、一人残ったサンディラは徐に右手を上げる。
「默雷」
サンディラの手に、雷を纏った光の塊が音もなく現れる。その塊は徐々に大きくなり、彼だけでなく周囲――半径五、六メートル程だろうか――をすっぽりと包み込んだ。一度強く発光し、空気に同化するように消えた光を眺め、サンディラは満足そうに頷く。
「っしゃ、カンペキ!」