Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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「ヒスイ!! ヤツらまだ追いかけて来てっぞ!」
後ろを確認したサンディラが前方を走るヒスイに叫ぶ。彼の言葉にヒスイが振り返ると、追われているにも関わらずその緋色の目が輝やいていた。あまりにも場違いで彼らしいその様子に思わず苦笑する。
「なァ、いーだろヒスイ!」
「……仕方ねぇな」
「っしゃ!!」
やや投げやりに許可を出せば、サンディラはニッと笑った。つられるようにヒスイも口の端を上げる。
「じゃ、いつも通り準備すっから時間稼げよ、サン」
「わーかってるって姉貴」
そう言葉を残し、サンディラは唐突に進路を変えた。ヒスイから離れ、近くの民家の屋根の上へ。だん、と一度足を踏み鳴らし敵の注意を一気に引き付けると左手を右腕に添える。
「轟け雷鳴! 唸れ、トルエノ!!」
呼び声に応え、右腕の金色の腕輪が淡く発光する。サンディラはそのまま右の掌を魔物達に向けた。
「取り囲め、雷針!」
彼の呼び掛けに応えたのは空だった。真っ白な雲が瞬く間に立ち込め、空を覆う。数回雷鳴が響いたかと思うと、突然雷が落ちて魔物の周囲を取り囲んだ。サンディラは振り返ってヒスイを見た。
「ヒスイ!!」
「上等だ」
準備が出来たらしいヒスイが目を細めて笑う。その手には、透明な球体が握られていた。彼女はそれを魔物の集団の中に投げ入れ、一つ拍手を打って地面に手をつける。
「水光――」
声に反応し、ヒスイの胸元にあるペンダントが光り出す。続いて魔物達の足元も淡く光り出した。
「陣・第三番――水の怒り」
ヒスイが叫ぶと光がその強さを増し、地面から水が勢いよく噴き上がる。それは魔物を巻き込み、天高く伸びる一本の柱になった。
「サンディラ!」
「おう!!」
サンディラは右手を天に突き上げた。爆ぜるような音がしたかと思うと、その手にはいつの間にか大きな稲妻が握られていた。サンディラは徐にそれを空へ投げ上げる。
「雷雨!!」
空高く放られた稲妻は彼の声に反応して割れ、幾つもの小さな破片に変化する。そしてそれらは光りながら物凄い速さで落ちていった。その光景は、まさに雷の雨。雷を纏う小さな槍は次々と魔物の身体を切り裂いていく。
「っしゃあ! ざまーみろ!!」