Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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ぞくり、と悪寒が背中を駆け上がる。見つかってしまったのだ、そう思うと同時に躓いて転んでしまった。
足が竦んで動かない。恐る恐る振り返ると、目に映ったのは迫り来る無数の影。その中に狂気を孕んだ笑みが見えた。
叫ぼうとするが、声も出ない。もう駄目だと目を瞑った、その時。一陣の風が吹いた。
ゆっくりと目を開けて顔を上げると、自分と『彼等』との間に影が立っていた。はためく濃い灰色のコートには緑のラインが入っているのがわかる。その人物は刀を抜き構えると、口を開いた。
「春風」
響いたのは澄んだ高めの声だった。ごう、と風が唸り自分達の前に壁を作る。それ以上、『彼等』が近付く気配は無かった。
「大丈夫?」
呆然としていると、目の前の人物が振り返り視線を合わせてくる。暗いボトルグリーンの瞳は、とても優しげだった。
少年が頷いたのを確認して、相手は顔を上げた。
「ヒスイ、この人」
「逃げ遅れか――テメェら、別れるぞ」
声を聞いて、少年は初めて目の前の少女以外にも人がいることに気が付く。少女も合わせて六人。皆同じようなデザインのコートを纏っている。
「オレとサンディラは取り敢えず少年を安全な場所へ。残りは――」
「魔物の殲滅、だな」
少女の隣に立った青年がその言葉を引き継ぐ。ヒスイと呼ばれた人物は少年に近付き、腰が抜けて動けないのを知ると彼を担ぎ上げた。
「うわっ!」
「暫くじっとしてな、少年」
そう声をかけた彼女は小柄な少年と目を合わせると二人で走り出す。瓦礫を伝って近くの建物の上へと駆け上がると、そのまま姿を消した。
その場に残されたのは、四人。結界で守られてはいるものの、周囲は魔物で埋め尽くされてしまっていて逃げ場はない。
その中の一人が、刀を抜きながら低い声で言った。
「……やるか」