Gray-Wind

□第二話【紅き瞳の奥底の】
14ページ/51ページ

「さっきはごめんな、ユキ。サンディラから目を離したらいつもこうなんだ。無傷でよかったよ」

「いいよ、そんなに気にしないで」


 びっくりしたけど大丈夫。そうユキが笑って返すと隣に居るゼンが少し呆れたように言う。


「ヒスイ……もうサンディラから目ぇ離すなよ」

「わかってるよ、ゼン。……あーあ、もうちょっと大人しくなってくれねぇかなぁ」


 景色に夢中でこちらの会話に気付いていないサンディラを見やって、ヒスイは笑った。

 そんな穏やかな彼らの会話に参加さえしようとしない二人。グレイルは彼らの声を遮断するように目を伏せる。


「……グレイ」


 それでも、囁くような片割れの声に反応し、目を開ける。彼の視界に映るのは、何処か心配そうな少女の顔で。

 何か言いたげな彼女を制すようにグレイルは口を開いた。


「……リア、お前は新人のこと、どう思う」


 その問いに、アミリアは暫し黙考して言葉を選ぶように答えた。


「……まだ、わからない……わたし達は、まだ、見てないから。…………でも、グレイ」


 気弱そうな伏し目がちの目。しかしその瞳には強い光が宿っているのを、グレイルはよく知っていた。


「……彼女は、私達の……仲間、だよ」


 アミリアの言葉に、反論することもなくグレイルは再び目を伏せる。


「…………知っているさ、そんなこと」


 吐き捨てるような呟きは、傍らに寄り添う彼女だけが聴いていた。













 廃墟と化した静かな街。聞こえるのは、自分の足音と、荒い息。そして『彼等』の動く音。

 もう、どのくらいの時間逃げ続けていたのかもわからなかった。走って、隠れて、息を潜めて。その動作を何回繰り返しただろう。

 周りに人の気配は無い。ごくたまに倒れている人間や水溜りは赤黒く染まっているものばかり。けれど、それらに一々構っている余裕など、残されている筈も無かった。

 胸元にある小さな物体を掴んで、喘ぐ。これだけは守らなければ、その思いだけで一杯だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ