Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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《opening》
近付いて来る足音にナギは気付いて作業の手を止めた。リズムの違う足音が二つ、扉の向こうから聞こえてくる。
『光の塔』の司令官に就いてから約八年、数年以上付き合っている者の足音はなんとなくわかるようになっていた。二つのうち、片方は誰のものかわかる。
――ということは、あの子たちが帰って来たのね。
わずかな情報だけでそう推測し、ナギは手元の資料を机の脇に置いた。程無くして指令室の扉が強めに叩かれる。
「どうぞ」
短く応えると、扉が開き予想通りの二人が現れた。
「お帰りなさい二人とも。結果はどうだった……あら、どうしたのゼン」
顔を上げにこやかに話しかけるも、茶髪の青年の眉間に皺が寄っているのに気付く。
ゼンは不機嫌な表情を隠すこともせずに大股でナギの机まで寄ると、両手で机を叩いた。ナギは落ちそうになった資料をさりげなく押さえる。ゼン、と一緒に入ってきた黒髪の少女が驚きと戸惑いを含めた声を出した。
「機嫌が悪いわね。もしかしてはずれだった?」
「ハズレどころか大当たりだ。そんなことより……ナギお前、なんで言わなかった」
「何のこと?」
「とぼけるな」
煉瓦色の目が鋭くナギを睨む。続く言葉にナギは口角を微かに上げた。
「カナリがユキだってことは、最初から知ってたんだろ」
「あぁ、ゼンなら気付いてくれると思ってたわ。よかったわね、ユキ」
彼の後ろに佇むユキに笑いかけると、彼女ははにかむように笑ってうん、と頷いた。