孤月と猫
□きみの全てに依存してる
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「――っ!!」
夢を見た。いつものあの夢を。周囲から拒絶される夢を。
……でも、今日の夢は、いつもより酷かった。
まさか、夢の中で彼女に拒絶されるなんて。
「――大丈夫?」
「!!」
聞き慣れた声に烏はびくりと肩を震わせた。暗闇に慣れてかた目にぼんやりと鈴猫の輪郭が浮かぶ。
「なんか、すっごくうなされてたけど」
近付く声と影。闇の中で、静かに光る相手の眼が見える。怯む間もなく前髪をかき上げられ、少し湿った布越しの額に彼女の手を感じた。
「包帯変えよっか。ちょっと待ってて、新しいのとお白湯を……」
そう言いながら鈴猫は烏から手を放し、背を向ける。すると突然後ろから伸ばされた手に腕を掴まれ、強く引かれた。
「わっ……!?」
背中に相手の体温を感じる。思わず抵抗すると腹に腕を回され、更に引き寄せられた。
「え、ちょっと、烏?」
「………」
烏は何も言わずに鈴猫を抱き締める。その細い肩口に己の顔を埋め、腕の力を強くした。
「ちょっ、くすぐったいよ」
慣れない体勢なのと首筋にかかる彼の髪がくすぐったいのとで、鈴猫は頬が熱くなるのを感じながら身をよじる。だがしっかりと回された腕は外れることもなく、身動き出来ない鈴猫は諦めた。
しばらくして、鈴猫はゆっくりとやわらかい声で問いかける。
「……どしたの、烏。何かあった?」
「………」
烏は何も言わない。それでも鈴猫は問いかける。
「怖い夢でもみた?」
今度は反応があった。一瞬腕がびくりと震え、また力が込められた。
「……どんな夢だったの?」
「…………いつもの夢だ。大したことない」
苦し紛れな一言。それは意地を張っているようにも聞こえる。
「ウソ。ならこんなに取り乱したりしないよ。……本当は?」
優しい声音で尋ねると、短い沈黙の後少し聞き取り難い声と音量で烏がぼそぼそと話す。
「……いつもの夢に……お前が出てきて……他の奴らと同じように、おれを……化物、だと」
「……そっか」
鈴猫は少し驚いたふうに応える。そして苦笑すると、緩くなっていた烏の腕を一度解いて振り返った。傍でうつむいている彼に手を伸ばし、名を呼ぶ。
「烏」
暗闇の中、静かに光る黒い双眸。彼の瞳は不安げに揺れていて。
「アタシは、烏の傍にいるよ。ちゃんとここにいる。烏がどんな姿になっても、アタシが烏の傍にいるのは変わらないよ」
だから、安心して、と烏の頭を撫でながら鈴猫は優しく微笑む。そのまま少し腰を浮かせて自分の胸に引き寄せ、今度は自分から烏を抱き締めた。
目を閉じると、微かに鈴猫の心音が聞こえる。優しくて安心させる鈴猫の音。烏は鈴猫を抱き締め返しながら、ゆっくりと眠りについた。
きみの全てに依存してる
(いつしかおれはおまえに依存していたんだ)
(このぬくもりを手放したなら、おれはどうなってしまうのだろう)
→謝罪大会始めます