孤月と猫
□ごめんなさいとありがとうを
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「烏のわからずや!! もう知らないっ!!!」
そう叫び、鈴猫は宿を飛び出した。どんよりとした雲の下、街中をうつ向いて走る。やがてそれはゆっくりとした歩きに変わり、立ち止まって振り返る。人混みの中、追って来る陰もない。
鈴猫は泣きそうな顔で呟いた。
「………ごめんなさい」
滅多にしない喧嘩。でも原因はほんの些細なこと。どちらが悪いのかはよくわからない。…否、どちらも悪いのかもしれない。
相手のことが時々わからなくなってしまうのだ。触れたいと思うのに触れられない。解りたいと思うのに、解らない………
「………はァ」
屋台がある通りをぶらぶらと歩く。宿に戻る気はなかった。今烏に会えばまた口論してしまいそうだった。
――…嫌われちゃった、かな?
笑ったつもりだったが、口元がぎこちなく歪んだだけだった。
少しおぼつかない足取りで路地に入り、薄暗い中に腰を下ろす。通りの喧騒が少し遠く聞こえる。心のわだかまりを少しでも吐き出そうと溜め息をつくと、今度は鼻の奥がつんとして涙が溢れてきた。
「――っ……」
膝を立て、両腕で抱えそこに顔を埋める。このまま眠りたいと思った。