孤月と猫
□幸せな時間
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「……もうすぐ予鈴鳴るぞ」
「烏は行かないの?」
「……サボる」
「じゃあアタシも」
「………」
楽しそうな鈴猫の声に烏は小さく溜め息をついた。会話はそこで途切れる。
暖かくて優しい、午後の時間。
再びうとうとし始めた烏の肩に、不意に重みのあるものが乗った。
左肩に目を向けると、乗っているのは彼女の頭。
「……おい――」
「す――……」
彼女は静かに寝息をたてていた。口元に笑みを浮かべ、目を閉じている。
幸せそうな、寝顔。
「……鈴猫………」
小さな声で名を呼び、その頭に手を伸ばす。
触れるのは柔らかい彼女の髪。ゆっくりと撫で、風で少し乱れたのを整えた。
「ふふっ………」
「!」
突然鈴猫が声をだす。驚き烏は手を止めたが、すぐに寝言だと気付いた。
「烏………」
気持ちよさそうに顔を綻ばせる彼女に思わず笑みを漏らす。
―――……
予鈴が鳴る。
烏は手を下ろすと自分の肩に乗っている鈴猫の頭に顔を傾け、予鈴を聞きながらゆっくりと目を閉じた。
幸せな時間
(君はいつまで俺の傍に居てくれるだろうか)
(願わくば、この時間が永遠であるように…)
SS→森崎様