孤月と猫
□娘ノ記憶
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すると彼はゆっくりと掴まれた手を下ろした。彼女の顔をちらりと見てまた顔を背ける。
「……あまり、表情を作るな…」
「……え?」
小さなその呟きはしっかりと鈴猫の耳に届く。
表情を作るな、そう言われ彼女は首を傾げた。自分の行動を少し思い返す。そしてそれで彼がとった行動も……
――…あぁ、そっか……
やがて導き出された、一つの結論。
彼が今まで置かれてきた状況。
烏はずっと一人だった。その不気味な恰好。身に受けた呪い。
それらのせいで受けた、他人の態度。
忌まわしきものに対する冷たい目や偏見。そして、あくまで鈴猫の考えだが、独りになればなる程恐ろしく感じるもの……―
本当の心を隠した表情。
仮面のような笑顔。
鈴猫は烏の手を少し強く握った。
「……ごめん烏。でも、悪意はないから安心して」
悪気はなかったんだ、と困ったように笑う。
「アタシも人間だからさ、今までやってきたことをすぐには変えられないからまたしちゃうかもしれないけど。でも、烏の前ではしないようにするから」
ね、と烏を見上げ念を押すように柔らかい笑みを見せる。勿論、本心は隠していないつもりだ。
「………」
暫くの沈黙の後、ようやく烏は頷いた。鈴猫はよしと頷いて立ち上がり、また自分のベッドに座る。
一つ息を付き、次に何を話そうかと視線を上げると、再びこちらをじっと見ている烏と目が合った。その目が何か言いたそうにしている。
「………?」
また同じように尋ねるのもどうかと思い、鈴猫は首を傾げて促した。すると烏はわかり難いが少し眉根を寄せ、ぼそっと呟く。
「……気にしているのか? あの占い師が言ったことを」
「――!」
鈴猫の肩が少し動く。彼女は暫し目を見開き――そして、少し眉を下げて笑った。