孤月と猫
□傷ト熱ト(仮)
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さくり、さくり、と軽い音をさせて、二人は薄暗い森の中を歩いていた。周囲は鬱蒼と木々が茂っていて日光がほとんど遮られ、まだ昼過ぎであるというのに薄暗い。
方向感覚を失いそうになる中で、二人は頼りない木漏れ日でわずかに視認できる獣道を頼りに歩いていた。
「森の中は空気が美味しいねェ。町みたいにがやがやしてるのも楽しいけど、やっぱり静かなのも落ち着いていいなァ」
「……そうか」
「うん!」
にっと笑って頷く鈴猫の様子に、烏は微かに笑った。今までそのような周囲の様子を全く気にしないで旅をしていた彼にとって、鈴猫の感覚はとても新鮮に思えるもので。無意識に、烏の纏う雰囲気が和らぐ。
それを感じ取ったのだろうか、鈴猫は軽快な足取りで空を見上げながら一度くるりと回った。
それで起こった小さな風で、足元の色づいた落ち葉が微かに浮き上がる。二人の頭上からはらはらと落ちる葉と相まって、その光景はどこか神秘的だった。
ゆっくりと深まっていく秋。冬の足音は、だんだんと迫っていた。
「うわああああああ!」
突然、どこからか叫び声が聞こえた。ひっくり返ったような若い男のものだ。
二人は顔を見合わせ、先ほどの穏やかな雰囲気から一転して弾かれたように走り出した。烏は赤い番傘の柄を握り直し、鈴猫は荷物に入っていた小弓と弓矢を引き抜く。
声のした方へと走っていると、前方に大きな獣のような影が見えた。巨木に向かって低い唸り声を上げるその姿は、動物と言うにはどこか異様な雰囲気を放っている。妖怪の類、だろうか。
獣越しに藍色の何かを見た鈴猫は、顔を険しくさせて烏を呼んだ。
「烏、お願い!」