孤月と猫
□老婆ノ占
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その町は、今日も活気づいていた。赤い柱や屋根が目につく建物が並び、大通りでは商人達が道行く人を呼び止める大きな声が飛び交っている。人通りは多く、どうやらここは旅人達が多く足を運ぶ町のようだ。
そんな町に、二人の旅人が足を踏み入れた。
「……うっわぁ、すっごい賑やか……」
鈴猫は面白そうにきょろきょろと町の様子を見ていた。初めての物を見る子供のような彼女を見て烏が短く聞く。
「――……初めてなのか?」
「うん。元々、村から出たことなかったから。――にしても、すっごいなぁ……」
キラキラと目を輝かせる鈴猫。そんな少女を見て、彼女にしか解らないような微笑を浮かべ、烏は歩き出した。
「……宿を探すぞ」
「はぁーいっ!!」
鈴猫は嬉しそうに彼の袖を掴む。はぐれてしまわないように、自分はここに居るのだと烏に伝えるように。
二人が歩いていると、何人かの通行人がちらちらとこちらに目を向けてきた。彼等が目を向ける理由……それはきっと、烏の顔だろう。
無理もない。包帯で顔の殆どを覆っているその外見では彼の年齢や表情がわからず、不気味だからだ。
だが、二人がそれを気に止めることはない。……そう、それはいつものことだから。
しばらく歩いていると、二人は小さな宿屋を見つけた。他の宿屋より人が少ない。彼らにとっては都合がいい。
中に入ると、人のよさそうな落ち着いた雰囲気の女性がカウンターに立っていた。彼女は、最初こそ烏の格好に驚きを見せたもののすぐに二人ににっこりと笑いかける。
「いらっしゃいませ旅のお方。今晩はこちらでお泊まりで?」
「……ああ、一部屋でいい」
「かしこまりました。では、こちらにお名前を」
スッと古びた帳簿を差し出す。鈴猫がペンを取り、名前を書き込んだ。
「……では、こちらになります」
女性はそう言って、少し錆びた鍵を鈴猫に渡した。