孤月と猫

□旅立チ
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 ……誰もきみの名を呼ばないなら

 私がその名を呼ぶよ

 どうしようもなく泣きたくなったら

 何度だって抱き締めてあげる

 私はあなたの支えになりたいの

 ……だからお願い

 本当の笑顔を見せて……?





「……世話になったな」


 ぽつりと言い、男は立ち上がる。


「行くの?」

「……あぁ」


 少し名残惜しいが、心はどこか晴々としている。これもきっと、彼女のお陰だろう。鈴猫も立ち上がり、笑みを溢した。


「……そっか……じゃ、アタシもそろそろ行こっかな」

「………………………は?」


 彼女の言葉の意味を理解するまでに数秒かかった。男は驚き彼女を見る。


「……今、何て………」

「アレ? 言ってなかったっけ?」


 鈴猫は首を傾げた。次の言葉に男は耳を疑う。


「アタシも旅に出るって」

「……聞いてない。でもどうして突然」


 鈴猫は明るく楽しそうに言う。


「前から出ようとは思ってたんだけどね。きっかけが作れなくて。……やっと、"理由"が見つかったの。だから」

「……女一人で?」

「うん。こう見えても腕っ節強いし、薬草売って旅費稼げるし」


 ……無謀過ぎると思った。彼女には悪いが、あまりにも夢だけのような気がする。

 ……こいつは昨日のことを忘れたのか。


「――……昨日を忘れたのか」

「それは大丈夫。アタシにはコレがあるから」


 鈴猫は服の裾を少しだけ上げた。右足に短剣がくくりつけられている。


「母さんが持ってたの思い出したから。アタシにも使えると思って」

「…………行き先は?」


 根本的なところがわかっていない。そう感じ、心中呆れつつも話を変える。


「決めてないよ。森を抜けたらもう一つ村があるから、まずはそこに行こうと思ってる」

「…………」


 ここまで能天気な奴はあまり見たことがない。本当に大丈夫なのだろうか。
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