孤月と猫
□獣ト妖
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上衣の襟を合わせ直し、傘を持って立ち上がる。男は外に出て少し名残惜しそうにその小屋を見た。
――もうここにはいられない……
あらかた傷も治り走れる程に回復した。それに長くここにいればいずれ気付かれてしまう。もし鈴猫の前であれが起これば、彼女は無理やりにでも包帯を解こうとするだろう。
――何も言わずに出て行ったほうがいいな。引き止められるかもしれない。
「……世話になった」
そう口の中で呟くと、男は踵を返し山の中へと足を踏み入れた。……そう、山の中、その奥に向かって。
追っている間に、小熊の動きが段々と鈍くなっていく。矢先に薬を塗っておいたのだ。
「よしっ、じゃあ次っ!!」
追いかけながら新たな矢をつがえ、狙いを定める。
見事命中。すると小熊は急に足を止め、低く唸って横に倒れた。動く気配がない。
「試作品の即効性麻痺薬。効いてよかったぁ」
よし、と小さくガッツポーズをとり笑う。そして手早く小熊の手足を縛った。
「これでよしっと。早く帰って傘持ちさんにご馳走しなきゃね……」
熊の足を掴み、引きずって行こうとした、その時――
突然、周囲の音が止んだ。――否、止んでいるのに気付いた、というのが正しいだろう。さっきまで楽しそうに鳴いていた鳥たちの声が聞こえない。
「……何……!?」
鈴猫は身構えた。そこでようやく自分の失態に気付く。深追いして奥まで来てしまったのだ。山奥には獣以外にも棲むモノ達がいる。