孤月と猫

□猫ト赤傘
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 ――『………』


 おぼろ気な記憶。


 ――『……け………の』


 小さな影を囲う、たくさんの大きな人影。


 ――『……化物』

   『災厄の子』

   『妖に魂を売った』

   『何と恐ろしい』


 冷たい言葉は目に見えぬ刃となり、体に突き刺さる。


 ――記憶……コレを受けた、あの時の


 小さな影の前に現れたのは、一つの人影。誰かはすぐにわかった。影は思わず手を伸ばす。だが、それは無情にも振り払われて。


 ――『近づかないで。気味が悪い。何て醜いんだろう』

 ――あぁ、あの人の言葉は、何よりも辛かった……


 暗闇の中、蹲る影。向けられる視線は冷たく、またかけられる言葉も辛いもので。思わず自分自身を守るように己の体を抱きしめた。


 ――『だれか、たすけて……』


 小さく紡ぐその言葉は、誰にも聞かれることもなくただ闇に虚しく響くだけ。


 ――『ひとりはいやだ。だれかきて、だれかそばにいて……』


 震えるその肩は、誰にも抱かれることはなく……


「――大丈夫」


 その時、闇に声が響いた。顔を上げると、目の前には温かな光と差し延べられた手。誰のものかを確認する前に手を掴まれ抱き寄せられる。


「大丈夫。私がずっと、貴方の傍に居るから」


 安心させるような優しい声。凍った心を解すような暖かい言葉。


 ――このぬくもりを、離してはいけない。


 直感的に、そう思った。思わずその手を握り返した……
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