孤月と猫
□出会イ
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太陽は傾き、沈みかけている。地を這うように伸びている自分の影を見ながら鈴猫は歩いていた。
「あーっ、今日もつっかれたぁ……でも、廉もばぁちゃんも喜んでくれたし、断じいから美味しい柿ご馳走してもらったし。うん、いい一日だった!!」
ニヒヒと笑い、一度楽しそうに彼女は跳ねた。………その時。鈴猫は視界の中に見慣れぬものをとらえた。
「ん? あれは……?」
何かが道の端に落ちている。……いや、正確には誰かが横たわっていると言った方がいいだろう。
ゆっくりと近づくと、それは上半身を木に預けている一人の見知らぬ男だった。ゆったりと着られた黒い着物。バサバサした漆黒の髪。その傍らには大きな傘と荷物が置かれているので旅人なのだろうと推測できる。だが、男には一つ不自然なところがあった。
「……病人?」
身体全体が包帯で巻かれていたのだ。着物から出ている手や足は保護するためだと言われれば頷けるが、顔を隠し目と口だけが見えるように巻かれているのを見ると不気味に思える。
普通なら、気味悪がって誰も近寄ろうとはしないだろう。だが鈴猫は気に止めることもなく、そっと男に手を伸ばした。
「……生きてる……よね?」
その顔に触れようとした、その時。男の肩がわずかに動いた。
「――っ触るな!!」
低めの、激しく動揺した声が男から響いた。それと共に、突然手を掴まれる。思いがけないその握力に鈴猫は思わずびくりと身体を震わせた。
「うあっ!?」
「……触る、なッ……」
髪と同じ漆黒の、細めな目が鈴猫を睨んだ。まるで全てを拒むかのような、暗く鋭い瞳。
――……なんて哀しい瞳なんだろう……
彼の眼を見て、ふと彼女は思う。しかしすぐに男の姿へと目を移した。彼の外見や瞳よりも、今は体の様子が気になった。
よく見れば、彼は肩で息をしていた。鈴猫の手を掴んでいる包帯に覆われた手も汗で冷たく湿っていて、震えていた。伸ばした左足の包帯が赤黒く染まっている。
「……アンタ、大丈夫? すっごいケガしてるみたいだけど」
気が付けば、そう問いかけていた。すると男はわずかに目を大きく開いた。すぐにもとに戻ってふいと顔を背け、眉根を寄せる。