孤月と猫
□出会イ
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「ねぇちゃん!!」
高い少年の声が響き、少女は振り返った。
擦りきれた淡い桃色の半袖の着物に紅い半ズボン。後ろで一つにまとめられた明るい茶色の髪は、光の加減でキラキラと輝くことから金が混じっていることがわかる。深みを帯びた茶色の目は大きく、いかにも天真爛漫といった印象を受ける。
その胸元で紅い鈴が光り、楽しそうにチリンと鳴った。
「鈴ねぇちゃん!!」
「廉! どしたの?」
少女の瞳はこちらに駆けてくるまだ幼い少年の姿をとらえた。彼女はしゃがんで追い付いた少年と目線を合わせる。すると、少年は少し急いだ様子で話し出した。
「っあのねあのねっっ、鈴ねぇちゃんにおねがいがあるの!!」
「ん? なァに?」
「カキがね、おっきなカキがほしいの。ばぁちゃんが食べたいって言ってるの」
両腕をいっぱいに広げて言い、少年は彼女に手に持っていた小さな袋を突き出した。袋の中には何か小さくてごつごつしたものがたくさん詰まっている。
「何コレ?」
「クリだよ。今日の朝かぁちゃんといっしょに山ん中入っていーっぱいとったんだ」
ずいと差し出された袋に少女が思わず首を傾げると、少年は得意そうに笑って胸を張る。
「こんなにたくさん……いいの?」
「いーの!!」
少年は力強く頷く。すると少女はニッと笑い、彼の頭を優しく撫でながら袋をひょいと受け取った。
「よーしわかった!! 夕方までにこの鈴猫様が廉のばァちゃんに美味しい柿を届けてあげよう!!」
「ほんと!? っわーいっっ!!」
少年は飛び上がって喜ぶ。だが、すぐにあっと言って少女に顔を近付けた。
「……このこと、ばぁちゃんにはないしょだよ?」
「わかった。ばァちゃんには内緒だね」
二人で額をぶつけあい、口元に人差し指を当ててシーッと言う。すぐに額を離すと、少年はまた笑顔になって手を振り駆けて行った。
「じゃあ鈴ねぇちゃん、またね!!」
「うん、まっかせなさい!」
少年の小さな背が遠くなる。少年が見えなくなるまで見送ってから少女は立ち上がり、一度大きくのびをした。
「よっし……柿なら、断じいのところに生ってたよね。ひとっ走りして……こんなに栗も貰っちゃったし、お裾分けついでに台所借りて蒸さしてもらお。よし、今日は栗飯だ!!」
そんなことを一人つぶやき、少女は楽しそうに走り出した。
彼女の名は鈴猫。名もない小さな村の外れに一人で住んでいる少女だ。