Gray-Wind

□第二話【紅き瞳の奥底の】
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《ending》



 地下に身を潜めていたヒスイたちに全て終わったことを告げ、少年を連れて外に出る。変わり果てた街並みの様子に少年は絶句し、ただただ呆然と立ち尽くしていた。


「街が……そんな……」


 大量の魔物が押し寄せてきた時点で絶望的なのは分かっていた。けれど、激闘の末焼け野原へと変わってしまった街だった場所を見せつけられると、そのことを改めて思い知らされ、酷い喪失感に襲われる。

 ユキたちが戦っている間、生存者は少年以外ただの一人も見当たらなかった。自治地区の外へ魔物から逃れることができたか、それとも捕らえられ喰われてしまったか……

 何にせよ、少年は失ってしまったのだ。故郷も、生家も、友人も、家族も。なにもかも。


「……辛いよな」


 少年の肩を己の胸にそっと抱き寄せ、ヒスイは低い声で言う。掠れた声は、ほんの少し震えていた。


「ごめんな……間に合わなくて……守れなくて」

「…………ううん……ううん。そんなこと、ないよ。お姉ちゃんたちは、戦って、くれたんだから」


 長い沈黙の後、絞り出すように少年は答える。それは、無理やり自分に言い聞かせているようでもあった。弱々しいその姿に、ヒスイは顔を歪める。

 ヒスイが少年に再び声をかけようと口を開いたその時、どこからか呼び声が響いた。


「ミラク!」

「……!? あ……」


 呼び声に反応し、顔を上げた少年の目が大きく見開かれる。彼の目に映ったのは、瓦礫を避けながらもこちらへと走る数人の大人の姿だった。その誰もが、少年が良く知る人々だった。


「みんな……」

「――さっき連絡が入ったんだ。『光の塔』の救護班から、カリエンテの住人を保護したと」


 耳元の通信機を押さえていたグレイルが静かに言う。彼は戦闘を終えた後、地区の外と連絡を取っていたようだった。でかした、とヒスイは彼ににやりと笑って、そして少年の背を軽く押した。


「いきな」

「うんっ……!」


 少年はヒスイに背中を押されるがままに走り出す。その目には既に大粒の涙が浮かんでいて――同じように駆け寄った一人の男に胸に飛び込んだ。少年をしっかりと抱き止めた男は、顔をくしゃりと歪ませてまだ小さな頭を包み込むように撫でる。


「よく、頑張ったな」

「おれ、おれ……っ、う、うわああああっ!!」


 緊張や不安からの解放。既知の人々と再会できた安堵。自分は、ひとりになってしまったのではなかった。それまで溜め込んでいた様々な感情を爆発させるかのように、少年は大声を上げて泣いた。
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