Gray-Wind
□第二話【紅き瞳の奥底の】
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《act.2》
「……やるか」
ゼンの一言に皆が反応する。ユキとゼンは刀を、アミリアは短槍を構え、グレイルは右手を持ち上げた。彼の薬指には黄緑色の石がはめ込まれた指輪があった。
「二手に別れる。グレイ、リア、ここを任せていいか」
「ああ」
「よし――いくぞ」
ゼンの言葉と同時に結界が消え、四人が動いた。魔物達が四人を追おうとする。……しかし、彼らは動くことができなかった。
「ヴェール・リング――」
響いたのは青年の声。グレイルが一人、その場で右手を地に付けている。魔物達の体にはいつの間にか植物の蔓が幾重にも巻きついていて、その動きを封じ込めていた。
「アミリア」
「――了解」
風を斬る音がして、アミリアがグレイルの後ろから躍り出る。槍を構えた彼女は、勢い良く地を蹴った。
「……テール・ランス」
小さく呼ぶと、槍は呼応するように橙色に淡く発光する。彼女は槍を振り回し、魔物に跳びかかった。
「……土に還れ」
そのまま魔物の体を斬り裂き、なぎ倒していく。倒された魔物は斬り裂かれた部分から硬化していき、砂になって幾つもの砂の山を作って行った。
途中、アミリアの無防備に空いた背中を狙って新たな魔物が襲いかかる。しかし、彼女がそれを気にすることはない。――なぜなら。
「――っ」
とん、と背中に軽く当たる温もり。それに彼女は僅かに口角を上げる。アミリアと新手との間に現れたグレイルは、指輪が光る右手を伸ばした。彼の掌から先端が硬化した蔓が生まれ、魔物の体を突き刺す。
言葉を交わさず、また視線を合わさず戦う二人。けれどその動きはぴったりと息の合ったもので、洗練されていた。
生まれた時から――否、生まれる前から一緒に居た二人。双子の神秘、とでも言うべきだろうか。彼らは、お互いのことを一番よく知っていた。言葉など無くとも意思の疎通が出来るほどに。
『光の守護者』一のコンビネーションを誇るペア。……それが、『緑の守護者』グレイルと『地の守護者』アミリアだった。