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□人魚の歌3
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「有り難う、心配してくれて」
「……あぁ」
俺から離れていく彼女の背がいつもより小さく見えたのは、気のせいだろうか。
「ただいーって、どうした佐上」
彼女と入れ違いに戻ってきた秋山が少し呆けた様子の俺を覗き込む。今度は素直に疑問が口から出た。
「……なあ、最近あいつ、おかしくないか?」
「んー? ……あぁ、そう見えるのか」
俺の視線を辿った秋山は納得したように頷いた。その発言に俺は眉根を寄せた。
「どういう意味だよ、それ」
「お前は本当に鈍感……いや、無頓着なのか」
「だから、どういう意味だよ」
答えになってない。少し語気を強くすると、秋山は一度俺をみて溜息をついた。そして、こいつには珍しくやけに真面目な顔で俺に問う。
「佐上。お前、水波のことどう思ってんの?」
「は? 何をいきなり」
「異性として好きかって訊いてんの」
どうして今そんなことを訊くのだろう。どうしてそんな真剣な目で俺を見つめているのだろう。話をそらそうにも、そらせない。……それ以前に俺は、自分がわからなかった。
秋山の視線から逃げるように目をそらした。
「……わかんねぇ」
「……そっか」
秋山は何故か苦笑気味に笑う。
「ま、ゆっくり考えれば良いんじゃね? ……そんなに時間はないかもしれないけどな」
意味深な秋山の言葉が、しばらく俺の耳に残っていた。