幻水駄文

□似た者同士
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目に入ったのは、熱いまなざし。聞こえたのは甘い声。愛しさを込めた言葉。
「……カイト…」
ぼくができることは、ただ彼の名前を呼ぶことだけ。
「……シグルド…」
それから…









『似たもの同士』






薄く目を開ける。船にもうけられた自分の部屋。外から誰かが歩く音がする。
そんな、なんてことない、朝。
「…………なんで?」
カイトは、その言葉しか言えなかった。







手早く着替えをすませ、部屋を出た。なるべく夢のことは考えなぃようにした。…しかし、消そうにも消えてくれない。あんな優しいシグルドは見たことがない。いや、いつも彼は親切なのだが…それとは違う、彼の表情…
そこまで考えて、頭を振って考えを消した。そして看板への扉を開けた直後
「ぁ、おはようございますカイト様。」
「シグルド…!」
シグルドがいた。いつもの、笑顔で。
おはよう、と目を合わせないで前を通り過ぎた。思い出してしまった。ぼく、夢でシグルドと、キ、キスして…
夢の話なのに、無性に恥ずかしくなった。






なぜ、あんな夢を見たのだろう…今日はそんなことばかり考えている。
シグルドのことは、気にはなっていた。正直、海賊にはいいイメージをもっていなかった。キカに会って、悪い人ばかりではないとわかったのだが、長い間植え付けられたイメージは簡単には変わらなかった。実際、海賊島で会った海賊も、いい印象をもたなかった人もいる。
…しかし、シグルドは、違っていた。荒くれ者とは言えなかった。海賊とは思えないほどの親切で丁寧な対応…それには、驚いた。
シグルドのことは、確かに気になっていた。…でも、気になるといってもその程度だ。
「ハーウ゛ェイ…お前、食い過ぎなんじゃないか?」
どきっとした。食堂にさしかかったときに、不意にシグルドの声が聞こえたからだ。
「あぁ?そーでもねーよ。お前が少食すぎなのっ」
「俺は標準だよ。」
「海では何があるかわからないから、食べられる時に、たくさん食べる!」
「…まあな。」
「つーことで、ほら、これうまいぞ?」
「お前、太ったか?」
「これは筋肉だっ」
そこまで聞いて、カイトは食堂を後にした。



「……」
夜の潮風は心地よい。それに、群島は星がよく見える。だから夜に誰かが看板にでてくることも珍しくない。カイトは、そんな一人だった。もっとも、今日はまだ、カイト一人だったが…
「…はぁ…」
「…カイト様?」
「!!!」
突然、背後から声が聞こえた。そして、そこにいる人物をみて、さらに驚いた。
「シグ…ルド…」
「何か考え事をなさっていたのでしたらすいません。」
「ぁ、いえ…」
いつもの、顔。いつもの笑顔。
…だけど…
「…」
「…?俺の顔、変ですか?」
「ぇ?いや、カッコいい…じゃなくて!ぁ、いぇ、カッコいいんだけど…」
目をそらす。何言ってるんだ、自分は。
ぼくは、ただ、違和感を感じただけ…。
「どうしたの?何かあった?」
「…いえ、偶然ですよ。看板に出たら、カイト様がいらしたので。」
まただ…なんなんだろう、この…違和感。
「…シグルドは、ハーウ゛ェイといるとき、すごく自然だと思う。」
「そうですか?」
「うん。」
思い切って、言ってみることにした。なぜ、そんな張り付けたような笑顔をするのか。…でも、ぼくは、なぜそれを嫌だと思うのかわからなかった。
「…そうかも知れませんね…」
「シグルドは…大人だから、きっといろいろあるんだと思う。でも、ぼくに対してまで…その…無理に笑いかけなくていいんだよ…?ぁ、もし、無理してるんなら…だけど…」
最初は威勢よく話していたのに、だんだん自信がなくなって、声が小さくなるし、顔がさがっていくのがわかった。
…変な奴だと思われただろうなぁ…
「…プ…アハハ!」
「え…」
シグルドが、声を上げて笑ってる。こんな顔…はじめて…
「いや、失礼。真剣な顔で何をおっしゃるかと思ったら…」
「な…ッ!ぼ、ぼくは真剣に…!」
「…わかってますよ」
「!」
口元に笑みを残しながらも、ぼくを見つめる目は真剣そのものだった。なにも…言えない…。
「…すみません。どおも癖なみたいで。」
「はぁ…」
「でも、カイト様がやめろとおっしゃるのなら、やめるようにします。カイト様の前では、なるべく。」
「はぁ…」
「カイト様もやめていただければ、ですけど」
「はぁ………え?」
危うく聞きそびれてしまうところだった…ぼくも…?
「失礼。カイト様も、俺と同じような笑い方してると思ったんですよ。…笑いたくないときに、笑わないで下さい。」
「ぁ…」
なんで、こんなに不快だったのか…ぼくと、同じだったからだ…。
「失礼なことを言いました。すみません。」
「うぅん、シグルド…ありがとう。」
「いえ。」
シグルドのことが気になっていたのは、このためだったのか。
なんだか…今なら心から笑えそうだな…。
「…冷えてきましたね。そろそろ戻られた方が?」
「うん。そうだね。シグルドも戻るだろう?」
「はい」
そういって、並んで歩きだした。
マストの真下にさしかかったとき何かがカイトのほほに落ちてきた。
「わっ!?」
「どうしました?」
「いや…なにか…水かな…」
「先ほどは雨でしたからね…」
ぼくがマストを見上げようと顔をあげると、ぼくの正面にまわったシグルドと目があった。つくづく思うが、男の目からしてもカッコいいと思う。自分にはないもので、少し羨ましくも思える…
などと思っていると、ふいにシグルドの手がカイトのほほに触れた。
「え!?あ!?シ、シグ、ルド…!?」
「カイト様…」
夢と重なり、顔が赤くなるのを感じる。

(カイト…)

いや、でも、ぼく男だし、そんな、正夢になるなんて…!?

「…水のようですね」
ニコリと笑って、シグルドは指でカイトのほほを拭った。あぁ…なんだ…水を拭いてくれただけか…。安堵やら何やらでとりあえず礼を言って、顔を下げた。…何を考えているんだ自分は…恥ずかしい。
「…カイト様、思うように、行動しようと思うのですが…」
「ぇ?あ、うん、いいことだと思うよ…」
さっきの話の続きか…?カイトが顔をあげた瞬間、シグルドはカイトをマストに寄り掛からせ、自分はカイトを覆うようにマストに手をかけた。
「シグ…」
「キス、してもよろしいですか?」
「は……」
今度は、聞き逃さなかった。でも信じられなかった。だって、これじゃまるで夢のまんま…
「…ぼく、男だよ」
「知ってます」
「…海賊って、欲しいものは無理やりにでも奪うんだよね?」
「はい。でも、カイト様が嫌だと言うことは、したくありません」
「…やっぱりシグルドさん、海賊っぽくない」
「呼び捨てで結構です、と前言いましたよね」
「はい…」
もう、気をつけてないと自分の息がシグルドにかかってしまいそうなほど顔が近づいている…
死ぬほど恥ずかしいのに、目を、そらせない。
「…嫌、ですか?」
「…嫌…じゃないです…」
素直に言った。
その言葉を聞くと、びっくりするぐらい優しい顔で笑って…シグルドの唇が、ぼくのそれに重なった…
「……おやすみなさい。」
そう言い残して、シグルドは看板を出て行った。





部屋に戻ってすぐ、カイトはベットにダイブして、枕に顔をうずめた。暴れるほどの気力すら残っていない。
というのも、部屋に戻るとき、デスモンドに声をかけられたからだ。シグルドさんが探してましたよ、と。看板で会ったのは、偶然じゃなかったんだ…
「………あんの海賊ッ!!!」
やっぱりシグルドも海賊なのだと思いつつも、明日は朝一で会いに行こうかなと考えて、カイトは眠りについた…―

END











*****
はい!シグルドさん暴走してるしW主乙女だしどーしたものでしょうかね!!w
すみませんでしたorz

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