君の涙シリーズ
君が泣くのは、どんな時ですか?
01:日吉若
関東大会一回戦。
控え選手同士の戦い。
俺は、負けた。
悔しくて、申し訳なくて。
「すみませんでした。俺のせいで。」
跡部部長が、あそこまでして勝ち取った勝利なのに。
「別に、お前のせいじゃねぇよ。」
跡部部長の、そのいつもと違う優しさが、逆に苦しくて。
涙が止まらなくなった。
「「「ありがとうございました。」」」
この言葉が、俺達の夏が終わった合図。
先輩達は、引退で。
部長も俺になって。
あの人とも、部活ができなくなる。
苦しかった。
苦しくて、どうしようもなくて、
観覧席にいるあの人の所まで走った。
ただ、なんとなく顔を見たくて。
あの人は、俺になんて言ってくるだろうとかも考えて。
とにかく全力で走った。
「若。お疲れ様。いい試合だったよ。」
その人は、泣いている様子もなく、ただ静かに笑っていた。
さっきまで、あんなに会いたかったのに、今となっては何を言えばいいか分からない。
さっきまで流れていたはずの涙も必死に我慢して、平静を装った。
「…本当にいい試合って言うのは、跡部部長達のような試合を言うんでしょう?俺のは……いい試合なんかじゃありませんでした。」
俺は自嘲気味に笑いながら、そう言った。
本当は悔しくて、今にも再び涙が出そうだったが、素直に泣けなくて震える声を抑えた。
「ううん。いい試合だった。若の試合も。」
「………っ!!!!!」
この人は、なぜこんな風に言うのだ。
恨むとか、そんな気持ちは持ち合わせていないのだろうか。
俺が負けたせいで、貴女達の中学最後の部活が終わってしまった。
なのに、なぜ…。
貴女はこんなに強くて、優しいのだろう。
「泣いてるの…?」
「…泣いてませんっ!!!」
こんな虚勢を張っても、きっとこの人の前では無意味で。
貴女は、静かに俺の頭に手をのばしてくしゃくしゃと撫でた。
ああ。
もう、絶対に。
貴女には、勝てそうにない。
抑えていた感情が急に流れ出して、俺の頬を濡らした。
「高等部で待ってる。強くなった若のこと、待ってる。」
強くならなきゃ、いけない。
強くなりたい。
強くなって、貴女に下剋上してやりたい。
強くなりたい。
貴女を、守れるような人になりたい。
「待っててください。次は絶対に勝ちますから。」
この「勝ち」を、貴女は越前リョーマに向けたものだと思っただろう。
でも、本当は……。
「貴方に絶対に勝って、次は俺が貴女を守る番です。」
貴女には聞こえないように、そっと呟いた。
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