RKRN連作小説

□秘密の姫君8
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 日頃、暇さえあれば徹夜して鍛錬に励んでいる文次郎が、寝不足が祟ったのかはたまた何か特別な事情があったのか―――とにかく、風邪を引くという珍事から一週間。
 今やすっかり体調を回復させた文次郎は再び鍛錬に精を出すようになり、お陰ですっかり静かになった自室に、仙蔵は長次と伊作を招いてとある相談をしていた。
「…それで、遂にあの文次郎の奴までも、小平太の秘密に気付いてしまったという訳か…」
 仙蔵の言葉に、長次はゆっくりと首肯する。
 小平太の秘密を守っていこうと決めた三人は、時折こうして顔を合わせては情報交換を行っていたのだ。
 長次から一週間前に起きた風呂場での出来事を聞かされて、伊作は困りぎみに眉を下げる。
「うーん、留三郎も何か勘付いてるみたいだし、いよいよ秘密が公になってきちゃったかなぁ?」
 しかし、仙蔵はどこか思うことがあるようにいや、と首を振った。
「まだ公という程ではないだろう。 寧ろ、このことを知ったのが小平太とも我々とも近しいあの犬猿コンビであったことに感謝すべきだな」
 文次郎も留三郎も、友人の重大な秘密を悪戯に言い触らして回るような人物ではないことはよく分かっている。
 それに万一の時は、仙蔵と伊作とでそれぞれ抑えもきくだろう。
「それから伊作、留三郎は“勘付いている”というより“気付いている”ぞ。 他でもない、『小夜』という名前を本人から聞き出してきたのは留三郎だ」
「ええっ!?」
 仙蔵はさらりと付け加えるように言ったが、伊作にしてみればそれは寝耳に水も良いところだ。
「だ、だって、その、小平太の本名って、結婚相手にしか教えないって…!」
 それでなくとも、一度伊作は小平太に本名を問うて教えて貰えなかったことがある。
 自分にはダメでも他の人になら教えるとなると、どうしたってその真意が気になった。
「はっ!? ま、まさか小平太…留三郎に好意を…!??」
 想像の世界だけで突っ走っている伊作に仙蔵は呆れたような嘆息をつく。
「私も話しを聞いただけだから、事の真意も真偽も分からん。 勝手な仮定を立てては咄嗟の状況判断が狂うだけだから止めておけ」
 あくまでも冷静な仙蔵の言葉を聞きながら、その横で長次は考えを巡らせていた。
「…提案なんだが…、文次郎と留三郎の二人に、全てを話してしまうのはどうだろうか…」
 小平太の秘密を知られてしまった時点で、最早全容の八割は知られてしまったも同然だ。
 ならばもういっそ下手な隠し事はせず、寧ろこれ以上秘密を知る者が現れないように、五人でフォローしていければ良いのでは、と考えたのだ。
「成る程な、こうなったら情報は共有するのが得策、という訳か…」
「うん、その方が良いかもしれないね」
 仙蔵と伊作もそれに頷き、そうして、その夜。
 四年い組の長屋に留三郎を呼び出し、いつも夜中は鍛錬に出掛ける文次郎を引きとめて、仙蔵・伊作・長次にその両名を加えた“話し合い”が行われた。

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