RKRN連作小説

□秘密の姫君6
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 こんこんこん。
 日も暮れて蝋燭の灯に照らされた四年い組の長屋から、せわしなく何かを打ち付ける音が響く。
「何と言うことだ…!」
 この部屋の住人である立花仙蔵が、片手を文机について頭を抱え、もう片方の手で腹立たしそうに握り込んだ筆を机に叩きつけていた。
 仙蔵がこのように頭を抱えている理由は一つ。
 日中、留三郎にうっかりと小平太の秘密を悟られるような失言をしてしまったことを、完璧主義者である仙蔵は未だに気にしていたのだ。
「私の言動が原因で秘密が露見するなど、考えただけでもおぞましい…!」
 それだけは何としても避けなければならない。
 留三郎のことだから、きっと近日中に隙を見て小平太を問い詰めにかかるだろう。
 だがそれは、裏を返せばその『隙』さえ与えなければ良いということだ。
 例えば四六時中、小平太に張り付きでもして。
「…よし!」
 閃いた名案に一人頷いて、仙蔵は笑みを深くした。
 その後姿を、バレーボールを終えて帰って来た文次郎に不審そうに見られていることに、気付きもせずに。
 翌日から、仙蔵は奇しくもいつかの留三郎のように小平太と行動を共にすることとなった。
 朝起きてから授業が始まるまでの時間や、昼食時や放課後など、とにかく留三郎と小平太の接触を避けることを念頭に置いて行動したのだ。
 その結果、当然それまで用具委員会の仕事を減らすという名目で小平太に構っていた留三郎と出くわす機会も多かったが、仙蔵はその度に言葉巧みに留三郎を追い払った。
 留三郎は悔しそうな顔をするが、それを元に小平太にあたる訳にもいかずに結局は溜め息と共に引き下がる。
 そうして、留三郎が話を切り出せないままに数日が過ぎ去り、そろそろ冬の寒さが本格的に厳しくなって来た頃のある日の朝。
 とある実技の授業を切欠に、状況は一変する。

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